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さあ、と空気が変わったような、そんな気がした。
にこりと微笑む彼女が設置された大型の時計を見て、俺に言った。

「明けましておめでとうございます、リンク」

いつのまにか年が、変わっていた。一目につかない公園で、彼女と二人っきり。
きっと今頃屋敷は大盛りだろう。この屋敷に来てからずっと参加してきたものだから、予想は容易いことだった。
抜け出してきたことに少し罪悪感を感じながらも、わくわくした感情を抑えられない。第一抜け出そうと誘ったのは彼女だ。

「明けましておめでとう、ゼルダ」

ふふっ、と心底楽しそうに、ゼルダは笑った。帽子越しに俺の金髪を撫でる。

「また一つ、大人になりましたね」

「…子供扱いしないでよ」

むぅ、と頬を膨らませて、でもその手を振り払うことはしない。だいたいこの世界では歳をとらないんだ、これ以上大人になんかなりやしない。また彼女は楽しそうに笑った。

「まだまだ子供ですよ、私も、あなたも」

ここに勇者として来てから、たしか五年くらいか。彼女は確かまだ、三年くらい。クリスマスもまだ早い、冬だったような気がする。
不意に頭を撫でていた手が離れた。純粋に寂しいと思った。

「確かに精神年齢は俺の方が子供かもしれないけどさぁ」

有意義にあの七年感を過ごした彼女に比べて、俺はどうだったか。ずっと眠っていただけだ。仕方なかったのかもしれないけど、それが俺と彼女に埋められない壁を作ったのは紛れも無い事実なのだ。

「…ゼルダはもう大人だよ」

大人になんかなりたくないと、あの頃はずっとそうだった。ピーターパン・シンドロームと呼ぶのだと、この前図書室の本で知った。まあ彼女の真似をして本を読みはじめただけだから、すぐに飽きてしまったけど。
――今はどうだろう。大人になりたいと、彼女を追い越したいと、そう思っている。
寝る子は育つ、とばかりに俺は彼女よりも背が高い。そこだけは勝っている。
また、彼女が俺の頭に手を伸ばし、ぴたりと不自然に手を止めた。そのままその手は俺の頬を包み込む。

「別に無理して大人になる必要はありません」

そっと、彼女は額に唇を落とす。

「きっとすぐにその時は来ますから」

大人になれるのだろうか。ブラックコーヒーも飲めないし、タバコもお酒も全く駄目な、こんな俺でも。

「今はほら、年越しを楽しみましょう?」

くすり、とゼルダは笑って、俺の手を取り歩きだす。
向かうのは、初詣。きっともう皆も向かっている。

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