砂糖菓子のような君(1/2)
最近、リリィは手芸にこっている。
メリッサにレース編みを教えてもらってからというもの、毎日少しずつ編み物をするのが日課なのだ。
まともなものが出来上がったら、まずは教えてもらったお礼としてメリッサに。それからいつもお世話になっている侍女にもあげよう。
そう考えながら編んでいると、なんだかとても楽しくて、時間を忘れてしまうときすらある。
今日だってふと時計に視線をやれば、編み始めてからもう数時間は経過している。
リリィは編みかけのそれをテーブルへ置くと、ぐっと伸びをした。
今日はもうこのくらいにして、休憩しよう。
ふう、と長く息を吐き出して、ソファの背もたれに身体を預ける。
そのままうとうととしかけたが、こんこんと響いたノックの音に意識を引き戻されて、リリィはあくびを噛み殺しながら返事をした。
「はぁい、入ってどうぞ」
最近よく一緒にお喋りをする侍女だろう、そう思ったが、その予想は見事に打ち砕かれた。
「リリィ」
「ふぁ、ジェイドくん!?」
扉を開けて入ってきた彼に、再び出かけたあくびは引っ込んだ。
日中、彼が出歩いているのは珍しい。もっと驚いたのは、リリィの自室にわざわざ訪ねてきたことだ。
「ね、隣……座ってもいい?」
扉を閉めて、ソファを指さすジェイドに、リリィは一瞬目を丸くしたが、頷いた。
彼女はソファの端の方に座り直すと、どうぞと空いたスペースを譲る。
「べつに、そんな端に行かなくてもよかったのに……」
ジェイドはぽそりとそう言うと、空いた場所へ適当に腰かけた。
人ひとり分は座れるスペースを開けて座った彼は、無表情でじっとリリィを見つめはじめる。
「あ、あの、ジェイドくん?」
「なに」
「どうしてずっとこっち見てるの? 私になにか、用事があるの?」
視線にいたたまれなくなった彼女がそう問いかけると、彼は少し考えるような素振りをしてから、ゆるく頷いた。
「実は僕、最近ちょっと調子がよくないんだよね。熱でもあるのかなぁ」
「熱って……具合悪いの? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも。くらくらするし、喉も渇くし」
ジェイドは気だるげにソファに寄りかかり、背もたれにこてんと頭を預ける。
さら、と流れた銀髪の間から見える紫の双眸は少しとろりとしており、どこか怠そうだ。
心配になったリリィは少し距離を詰めると、彼の方に手を伸ばした。
片手で彼の額に触れて、もう片方で自分の額に触れる。
「うーん、熱はなさそうだけど……っ!?」
ぐっと、急に腕を引かれて、リリィはジェイドの方へと倒れ込む。
そのまま身動きも取れなくなるほど、きゅうきゅうと抱きしめられて、彼女は慌てた。
「な、なになにっ! ジェイドく……」
「静かにして」
耳朶のすぐ傍で囁かれて、リリィは言葉を引っ込めた。吐息が耳に掛かって、ぞくりとしたものが背中を這う。
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