FGOの夢小説2(天草)
2017/01/14 16:37

 天草と一緒にいるそれだけで幸せだ、なんてわたしは言えなかった。だってわたしは一緒にいて、好き合っている以上、天草を愛して、そして同じ気持ちが返ってくることを望むから(天草は、どうなのかわからないのだけど)。
 わたしは天草のことが一番好きだよ、天草はどう、あの子よりもあの人よりも、そしてなによりも、黒くて綺麗なあの女帝さまよりも、わたしのことを好きでいてくれてる? もし言ってしまえばわたしたちの関係が壊れてしまうのだって有り得る、だから、これらは言わない、言えなかった言葉たち。でもわたしはいつも、あの美しい女帝と天草の事を思ってひとりで勝手に辛くなってしまう。天草の愛を信じられないわけじゃない、でも、でも、でも。
 雨が降っていた。わたしは家の中で2番目に大きい窓から空を、そこから降りて行く水滴を見つめていた。わたしは手に持っていた本を、これ以上は進めそうになかったから、栞を挟んで傍らに置いた。空の雨を見て、音を聞いて、それから天草の一番がわたしなのかどうかに囚われていた。そしてその自己中心さにわたしは泣きたくなった。どうして同じ気持ちが返ってくることを望んでしまうの? 好きでいるだけで、同じ時間にいられるだけで幸せだと、自信を持ってそう言いたい!
 ふと手が温かくなった。「……天草」わたしは相手の名前を呼ぶ。「はい」と、天草が返事をする。霊体化して姿を表したのかそうでないのか、ぼんやりしていた私にはわからない。ただ天草が私の隣に来てくれたことが嬉しかった。
「今日は雨ですね」
「うん」
「この天気では、今日は海に行けそうにないです」
「……うん」
 わたしは、ただ天草の声に耳を傾けていた。感情のないように響くその声の中に、何かを見出そうとした。隠しているものがあるのか、それとも本当は何もかもを隠し切れていないのか、悲しさや憎しみが混ざっているからこそのあの声なのか、わたしには分からなかった、けれど、天草のこの声も、わたしは好きで、愛している。
 天草はそれからは何も言わなかった。わたしは天草の肩に頭を乗せて、同じように無言でいた。幸せだと思った。さっきみたいに、わたしが一番好き? と、悲しい、わたしたちの関係を壊しかねない疑問を振り払う事はできなかった。でも、同じ空間にいて、ふたりの場を共有している幸福のために悲しみは形を消した。
 わたしは目を閉じる。雨の音と、天草の気配。一緒にいるだけで幸せ、とは、やっぱり言えそうにない。わたしは天草を愛して、そしてそれに同じ愛が返ってくることを期待する、欲深い人間だ。それでも、わたしたちの間に共有されている、沈黙と幸福以上に欲しいものなんてない、と、そう思った。






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