「へぇ、武将さんなんですね、皆さん。すごいなぁ、」

「あのさ、、めちゃくちゃ気になってたんだけど、あんたら、なんでこんなに怪しい俺様達に対してそんなにふつうなわけ?」

佐助の疑問は武将達全員の疑問であった。
今この会話の元はといえば、天下の将軍様から勅令を承った真清の代わりに買い物に付き合ってくれることになった篠田という男に、彼らは戦国武将なんだ、と、彩芽が紹介したことから事は始まった。

まともな感覚であれば、なんだか、もう少しアクションがあってもいいんじゃないか、とそう、武将達は考えているわけだ。

「いや、だって、そうなんでしょ?」

篠田は相も変わらずにこにことしながら、そう続けた。

「恐らく、あなた方が不思議に思われてる事は理解できます。
しかし、そこに疑問を持って怪しむ、ということは、上官に疑問を持って怪しむことになりすから。」

そんなことは僕たちにはできないししないのですよ、

と、篠田は言った。

「Ha!!つまり、お前らはあの女に頭が上がらねぇ上に意見は愚か、疑問も持てねぇと、そういうことか」

「確かにそう解釈することもできますね。
しかし、我々の集団というのは、上に絶対服従を誓い、また、上も下につく部下に命を預け、自分の体の一部として扱うのです。」

おそらく、集団の体系と姿勢があなた方とは根本から違います。

「それに、あの方、九町少佐はこの篠田の命ですら、自ら盾となって守ってくださるのです。
僕はあの方に残りの人生の全てを捧げています。
彼女があなた方を疑わないのであれば、僕が疑う理由はありません。疑問をもてぬのではなく、もたぬのですよ。」

ヘラヘラとした、男かと思っていたが、この篠田という男、一本芯の通った男であったらしい。
それこそ、感動した幸村が、ショッピングモールで叫んでしまうくらいには芯の通った男であった。

「うぉぉぉぉぉ!!!おやかたさまぁ!!!
某、篠田殿のお考えに感動いたしましたぁぁ!!!」

「だんなー、ちょーっとばかし静かにしようか
皆旦那のことみちゃってるよ!」

「真田殿は元気ですねぇ」

「ごめんねー、ちょっと興奮さめるまでこのままかも、、」

「うぉぉぉぉぉ!!!」

モールの吹き抜けとなっている一階部分で叫ぶ幸村を宥めながら佐助が篠田に謝罪した。

「いえいえ。では真田殿が落ち着くまで、日用品でも買いに行きましょうか。器や茶碗には均一ショップがよろしいでしょう」

「おう、任せるぜ。篠田」

「なにからなにまですまねぇ」

「いえ、お金を出しているのは少佐ですから、お戻りになったらお礼を言われるとよろしいでしょう」

我関せず、と政宗と小十郎が篠田についてショップに向かうのを佐助は半分涙目になりながら見送るのであった。

「ちょーっとー!まってくださいよー!旦那方ー」





『速報速報、』

ショッピングモールの館内に突如、警報音のようなものとともに、機械的な女性の声が響き渡った。
それまで日常的に買い物を行っていた人々だけでなく、武将たちですら、買い物の手を止めて、声の主を探す。
独眼竜伊達政宗は手に持っていた面妖な形の器を棚に戻し、辺りを見渡した。

最上階まで吹き抜けとなっている中央のエリアに、様々な角度で突如スクリーンが写し出され、わらわらと各フロアの吹き抜け部の手すりあたりに群がる人々に混じり、なんだなんだ、と政宗らも群がってみる。

『昨年5月より勢力を拡大してきた渡島国境部におけるレジスタンス勢力、"ヴィスタ"の本拠地を発見、殲滅したと、国軍情報部より速報がありました。
情報部からの会見発表に繋ぎます』

写し出されたのは真清やその部下達と同じく、真っ白な軍服に身を包んだ女性であった。

『天照る天津神国の皆様に国軍情報部よりお知らせ致します。
昨年5月より勢力を拡大してきたレジスタンス勢力"ヴィスタ"の本拠地を北方司令部所属第5師団の尽力により、殲滅致しました事をお知らせ致します。』

アナウンスとともに、渡島(所謂北海道にあたる部分)の拡大図が写し出され、本拠地と思われる場所に印が打たれており、部隊が進んだであろう道筋も赤く示されていた。
その後も、その部隊がどんなに勇敢でどれほどの危険を犯したのか、と言うことが熱く語られた。

「プロパガンダですよ、気にしないでください」

篠田はぼそりと回りに聞こえぬように武将等に囁いた。

「ぷろぱがんだ、ってなんなの??篠田の旦那?」

興奮した幸村を宥めすかし、落ち着かせたためか、少し気疲れの見える佐助が篠田に尋ねた。

「国民を奮起させるための軍の宣伝ですよ。いつまでも平和でいると危機感やその他感覚が鈍りますし、このご時世いつ反軍運動が始まるかわかりませんからね。
定期的に、軍はすごいことしてるんだぞーまた戦争が起こるかも知れないんだぞーって言うんですよ。」

「平和な世にそのような事をする意味があるのでござるか、」

興奮の覚めたあとの幸村が問う。
それは平凡な質問であり、当たり前の問いかけであった。

「かつて、我々天津神と隣国國津神が一つの国であった時代、人々は長く平和に恵まれていました。その国は他国のスパイ、、つまり、密偵や革命家や政治犯、反社会的勢力のよい隠れ蓑となり、そして、滅びました。
その原因は、勿論今ある二つの国によって、反乱が起きたからに他ならぬのですが、人々の意識の低さも大きかったのです。
私たちは大丈夫、関係ない、というどこから来るのか分からないような自信や安心のために、滅びたのですよ。
人間は学ばぬ生き物です。
時々こうやって、危険を奮起しなければすぐに忘れてしまうのですよ。」

避難訓練みたいなものですね。

篠田がこう締めくくる頃には速報臨時会見は終了し、人々はそれぞれ、買い物に戻っていた。

「伊達殿、その器、気に入ったのなら購入なさいますか」

篠田の一人語りの間も面妖な、犬のような猫のような、はたまたネズミのようにも見えるなんとも摩訶不思議な動物の器をいつの間にか手に取っていた。

「、、いや、必要ねぇ」

また器をことりと棚に戻し、今度こそ別れを告げた。

なんとも間抜けな顔をしたそれは円らな瞳で政宗をいつまでも見つめていた。



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