九町綾芽の家に両親はいない。
綾芽と年の離れた姉を残して出ていったのはもう何年前のことになるだろうか、綾芽はしらない。
両親の残した金は少なく、姉は否応なく、条件によっては生活補助の出る士官学校に入らざるをえなかった。
綾芽も今年で中等学校に上がった。
姉は士官として順調に出世し、難しいことはわからないがあまり家には帰ってこられない。
何ヵ月も家を開けるときは、姉の部下が二三日ごとに面倒を見に来てくれる。
寂しさはあるが自分のために気を張ってがんばる姉にわがままはいえずにいるのが現状だ。
綾芽の学校帰りの日課は夕食の食材を買ってかえることである。
今日もまた日課通りに食材を引っ提げて家路についていた。
「はいはーい、動かないでね」
そんな言葉が家に帰った綾芽を迎え入れた。
驚きながら顔を声の方に向けてみると橙の頭のカラフルな男がにこにこしながら、刀を首筋にあててくる。
「動くな、、」
反対側をみれば任侠らしき顔に傷のある男もまた刀を私の首筋に当てている。
「質問に答えて貰おうか、」
「此処はどこなの?あんたの屋敷?
みたことないもんばっかりだし。妖術?」
任侠が刀を少し皮膚に押しつけながら言った。
「何とか言え!童!」
ピリピリとした気迫が肌をつく。
すぐにでも姉を呼ばねば、きっと自分は殺されてしまうと、本能で感じ取った。
しかし呼ぶには携帯端末を出さねばならない。
端末を出す間にお陀仏となることは想像に安い。
何かを言わなければ殺されると口を開いた。
「お兄さんたちは誰ですか?綾芽のおうちでなにしてるですか?」
なんとか言えと言われたので、回らない頭を必死に回して言葉を繋いだ。
傍目からは落ち着き払った童だと思われたことだろう。
「ほう、なら、てめぇが俺たちを拐かしたってのか、」
間髪入れぬ物言いに、彼らの中でそう結論づけられているのかとボンヤリ思う。
それならわざわざ聞かなければいいのに。
首に突きつけられた刀がさらにめり込む。
ああ、姉さんさえいてくれればとこの短時間に何度も思ったことをまた思い描いた。
「Hey!Stop小十郎」
「佐助も刀をおろすでござる」
指示を出したのは青と赤の青年。
綾芽の姉よりは自分に近いくらいの年齢だろうか。まだ若い。
「ガキが怖がってやがる。こんなガキに俺たちを拐かすなんぞできるわけがねぇ」
「政宗どののいうとおりでござる。佐助、刀をおろすでござる」
どうやら青と赤の青年は刀を首筋につきつけてくる二人の上司らしい。
するりと刀を解かれ、不意に力が抜けてストンとその場に座り込んでしまった。
カタカタと手と足が震えている。
情けないことだ。
さて、彼らは何なんだろうと見上げると、不思議な甲冑に色とりどりの面々。
はて、悪逆非道の隣国國津神の刺客か、はたまたコスプレか、、
とにもかくにも姉を呼ばねば、
「某の忍が失礼いたした。
某は真田幸村というものでござる。
お主の名前とここが何処なのか、お教えくださらぬか?」
「ちょ、旦那!」
赤い彼は真田幸村というらしい。まったく、戦国武将のような名前だ。
真田幸村と名乗る男の目は真っ直ぐに綾芽を見据えていた。
「……わ、たしは、九町綾芽。
ここは、、天津神にある、私の家。」
「HA!!!」
えらくEnglishな発音が聞こえてきた。
音の出先は今まであまり喋らなかった青い彼。
「真田に一歩先を越されるとは不覚だぜ。
俺は奥州筆頭伊達政宗だ
先は俺の右目が悪かった。だが、俺達も知らねぇとこに急に飛ばされてconfusion(混乱)してたんだ。」
これまた戦国武将のような名前を名乗る男がいた。
その側近らしいオールバックのヤクザみたいなおじさんはチラリと奥州筆頭の方を見た。
「あなた達はどこの人ですか?」
物騒な四人を刺激せぬよう、おそるおそると口を開いた。
こうして綾芽と武将の出会いがあった。