感謝祭作品 | ナノ
「だめ、だなぁ......」



ぼんやり呟いて、少し明るく思える屋根を見上げた。何分、下手をすれば何十分か何時間か睡魔が一切来ない。何日も続く不眠症? みたいなもの。理由はまぁ、些末なもので、起きたら目の前ですかすか寝息を立てる元譲さん、なのだが。



元譲さんは大きな会社の偉い人、で、私は営業職。仕事に行く時間もばらばらで、目が覚めたら元譲さんがいない布団の中で寝ていたーなんてことがざらにあって、それが何とも嫌なのだ。
寝返りをうって、先ほどから考えていた禄でもないことに思考を戻す。因みに題材は隣で寝ている元譲さんの眉間のしわに何本爪楊枝が挟めるか、だ。10本が理想、7本がやや現実を見た結果。さて、本当に挟まるか試してみようか。



安眠効果と言うのが気になるくらいの時間起きてる。寝ろ。寝てくれお願いします。羊を数える方法が英語圏でしか通用しないなんて聞いて以来試していないけど、やろうかな、あ、駄目だ、前にやったけど柵超えた羊がどうなったか考えてたら結局眠れなかったんだ。諦めて身じろぎする。




「.........う、ん......?」



しまった。唸る元譲さんの顔に、光が2つ、小さくてほのかな眼光に怒られる、と瞬時に思い至った。何だろう、昔夜更かししていたらお父さんかお母さんに「まだ起きてるの?」と何とも嫌そうな顔で言われた時の記憶が駆け回った。



「......まだ、ねていないのか.......」

「ごめん、起こした......?」



掠れた元譲さんの声だ。伸びた手が頭を軽く押える様に撫でて、のそりと起き上がる。繋がれた暖かい手に引っ張られるまま、台所の小さな明かりだけで照らされたキッチンスペースで動く元譲さんが熊みたいだなんて言ったら怒られるだろうな。



「ん」



湯気を上げたホットミルクに、コポンと投げ入れられる角砂糖を適当に混ぜる大きな手を見る。え、いいの、飲んでいいのこれ、きっと今元譲さんの目には私は腹を空かせた犬のように見えていることだろう。くうん。

無言で飲み干して、ほうとため息を着いた所で、そう言えば隣に立つ夏侯元譲その人は私が起こしてしまったんだっけと思いだす。



「あ、えと、ごめんね元譲さん、わたし、」

「眠気は来たか」

「え、あ、き、た、かな.........?」

「そうか」



短い応対だ。空になったマグカップをシンクに置いて水を入れるだけしてまた手を掴んで寝室に向かう元譲さんに、うろうろ覚束ない足でついていく。未だにあのホットミルクで体は暖かいままだ。



少し冷めたベッドに2人並んで布団をかぶって、緩く抱きしめられた腕の中で子供みたいに頭を撫でられる。だるんと重くなった気がする瞼に小さく唸れば、頭の丁度天辺あたりに温かい物が当たる。髭で分かると言うのが何ともあれだけど、元譲さんの口だ。少し笑って、縋り付くように目の前のスウェットを握った。




「眠るまで、ここにいるから安心して寝ろ」

「ねて、起きたらいないくせに、」

「...............」



しまった、怒ったかな、ちら、と上を見れば、暗さに慣れた目が顔を押える元譲さんを見つけた。つまらない欲張りだ。気を悪くさせたかもしれない。あわあわしてたら、「そういうことか」と呟く元譲さんの息



「同じ時間に起きてみるか?」

「え、あ.........うん」

「なら早く寝ろ」

「うん、」



額に押し付けられる唇に、どうせなら口にしてくれればいいのにと思って、あ、でもこの人甘いの苦手だったなと思いだして、せがむのを止めた。