はじめましてのご挨拶

アンティークな部屋。
置いてある物はすべて上等なものであるということはひと目でわかる。
身分の高い者の部屋なのだろう。
その部屋に似つかわしい、大きなベッド。そこに横たわっていた一人の少女が目を開けた。
どうやら眠っていたようで、少女はまだ眠気が残っているのか目を擦りつつ上半身を起こした。
大きく伸びをしてから、しかしふと自分の置かれている環境に違和感を感じ、辺りを見回す。、

「どこ、ここ……」

そして、呆然と呟いた。

「誰、この人……」

自分のものとは似ても似つかぬ部屋。ましてや、自分の部屋に男性など連れ込んだことはない。
だというのに、上質で柔らかなベッドに座る少女の隣には、自国に住む人間とはかけ離れた容姿の、美しい男が眠っていた。
少女の外見は肩下ほどまでの黒い髪に、黒い目。黄色い肌をしている。歳は18程だろうか。
それに比べ男は長い金色の髪に、高い鼻。肌は少女よりずっと白い。

「が、外国の人、かな……?
わ、私どうしてこんな所に……」

思わず頭を抱え、言葉にすることで少しは整理ができるだろうかと独り言をつらつらと並べてみる。

「私は確か、家に帰るところで、それから……」

それから……どうしたのだろう……。
思考は思うように進まず、1人悩んだところで正解は見つからなかった。
突然靄がかかったようになにも思い出せないのだ。
しかし、何にせよどうやって見知らぬ人の部屋に入ったのだろうか。なぜこの人は自分の横で無防備に寝ているのだろうか。
やはり、わからない。その時、少女の肩にポンと手が触れ、はっと思考が停止された。

「ねぇ」

「……え?」

振り返れば、肩に触れていたのは先程まで眠っていた異国の男。
目を閉じていた時にはわからなかった、赤と金のオッドアイが少女を見つめている。
綺麗だ。と少女は思った。整った顔立ちをしている彼に、よく栄える。その目が細められ、男はニッコリと笑った。
ぞくりとする。好意を持った笑顔ではないと判断できた。

「君、誰?」

「え、あ、えっと……」

一体何から話始めればいいのか。答えあぐねているうちに、肩に触れていないもう片方の手が、少女へと伸ばされる。
その手の行き先に気づいた時には、少女の首は締め付けられ、ベッドへと押し付けられていた。

「あ……ぐっ……ぅ」

「どこから入ってきたの?
君、何者……?」

男は少女を注意深く観察した。
おかしい。この部屋に他人がやすやすと入ってこられるはずがない。
だからよほどの手練かと思ったのだが、自分に組み敷かれている少女はろくに反撃も出来ていない。
わざと反撃をしていないのかとも考えたが、じたばたと暴れる様子から、それもなさそうだ。
ならば一体……

「んっ、んーっ、ぅっ」

「っ、」

男が考え込んでいると、手をどかそうともがいていた少女の爪が、男の皮膚にぐっと押し込まれた。
手を離すほどの痛みではなかったが、男の思考を止めるきっかけとはなったようだ。
力の強さは自分の方が上。だとすると、一度手を離し、相手が何者であるかというのを確かめても問題は無いだろう。
男はそう判断し、少女の首を解放した。

「!、はっ、げほっげほっ」

「質問の応えをまだ聞いていないよ。
君は何者?」

咳き込む少女を労る様子もなく問う。その目は冷たく、殺気立っていた。
しかし、少女はそれに臆することなく、その殺気を跳ね返すようにキッと男を睨みつける。

「わ、私が聞きたいくらいです!
あなたこそ何者ですか!?いきなりこんなことしていいと思って、!?うぁっ」

ぐいと胸ぐらを捕まれ、引き寄せられる。かと思えば、男は片方の手を振りあげ、少女の頬へと振り下ろした。
パンッと乾いた音が響き渡り、じんと頬が熱くなる。叩かれたのだと、少女は少ししてからようやく理解した。
驚きで目を見開く少女に、男は相も変わらず冷たい笑顔を向ける。

「正直に言った方が身のためだ。」

「……、っだから!私にも何で自分がここにいるかわからないんです!」

しかし少女の応えは変わらなかった。否、変えようがないのだが、男にそれが伝わるはずもない。
まだ足りないようだ。と男は少女の髪を鷲掴み、ベッドから引きずりおろした。抵抗する少女の髪を、ぐいぐいとおもちゃを扱うかのように右へ左へと引っ張る。
ブチブチと髪が抜けるのを手のひらに感じたが、それにも構わず、床へと転がった少女の顔を無理やり自分の方へと向ける。少女の目に、恐怖の色が浮かんだ。

「ねぇ、痛い?」

男は笑顔で問う。

「言う気になった?」

「……っ」

少女は、自分の体が震えるのを感じた。
この男はおかしい。私は、殺されるのだろうか。
そう考え、じんわりと目に涙が浮かぶ。

「ほら、早く言いなよ。」

男は、わし掴みにした少女の髪を揺さぶった。
この人は、人が痛がる姿を見て楽しんでいる。そうでなければこんな表情になるはずが無い。
殺される。漠然とした死の恐怖が、少女を襲った。
どくんどくんと心臓が高鳴り、体が震え、汗が頬を伝う。
嫌だ。死にたくない。死にたくない。

「……に、…くなぃ……」

「なに?」

「し、……っ」

「し?」

すっ、と少女は大きく息を吸い込む。
怖かった。でも、負けたくないと思った。心だけは、屈したくない。不思議と、体の奥から力が湧いてくるような気がした。
あつく、あつく、体が何かを感じ取る。少女は感じるままに、大きく口を開いた。

「知らないって、言ってんだろバカあああああっ!!」

叫んだ瞬間、体から光が放たれた。
視界は白に覆われ、男も、少女も何かを捉えることはできない。
そして同時に、光を放った瞬間、少女はどっと気だるさを感じていた。体力が根こそぎ持っていかれる感覚。吸い込まれるように意識が遠ざかり、瞼が落ちてくる。先程までの男の行動から、ここで自分が気を失ってしまってはどうなるか、想像するのも恐ろしい。

「……っ」

だからこそ少女はなんとか抗おうとしたが、抵抗虚しく、意識を手放した。



しばらくして光がなくなると、部屋の中はまるで嵐が来たかのようにめちゃくちゃに荒れていた。
カーテンは破れ、棚は倒れ、上質に違いないそれらはすべてもう使い物にならないだろう。
不思議と、男にケガらしいケガはなかった。しかし、それでもその予想外の力に驚きを隠せない。
部屋を荒らした原因の少女は、気を失っているのか、横たわったままピクリとも動かなかった。その様子を見た男の唇がニッと歪む。

「おもしろいもの、みつけた。」

男は床で気を失っている少女を抱えあげると、ベッドへと放り投げた。ぼすんと柔らかなクッションの上で少女の体が跳ねるが、それでも目を覚ます気配はない。よほど体力を使うのだろうか、あの大きな力は。
そんなことを考えながら、ボロボロになってしまったカーテンを裂き、逃げられないよう少女の両手両足をしっかりと固定した。

「楽しくなってきたなぁ。」

男は至極機嫌良くそうに言うと、そのまま部屋を後にした。





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