I can understand your feeling.

結局、足の捻挫は全治全治3週間だった。家に帰って靴下を脱いでみれば、見るに耐えない色に変色した足首に、由乃は慌てて私を病院に連れていった。私が診察を受けている間に、由乃が私の家に行って保険証とお金をもらってきてくれたからなんとかなったけれど、下手をしたらすごいお金がかかったはずだ。これから怪我はタブーだな。
幸い松葉杖をつくほどではなく、足を引きずりながらではあるが歩ける。たまに何かの拍子に痛むことはあるが、もらってきた湿布をして1日寝てしまえば、幾分か痛みはとれた。しかし、だ。

「私は家で待ってるよ。
2人で行っておいで。」

「ダメ!
詩織も一緒に行くのっ」

だからと言っていきなり遊園地を歩き回るのはキツいだろう。そりゃあ、由乃と遊園地は行ったことがないから行きたいのは山々なのだけれど、何せ天野君もいるし。
私は断固として意見を曲げようとしない由乃と、困ったように私と由乃のやりとりを見守る天野君に苦笑した。

来栖さんに警察署付近にいることを命じられた私たちは、近くにある遊園地に行くことになった。
でも、"私たち"と言いつつも実際に近くにいるべきなのは天野君と由乃。私は2人のおまけのようなものだ。雨流みねねの邪魔をし、且つしっかりと顔を見られているから念のため。だが足のこともあるし、せっかくの由乃の天野君とのデートチャンスを台無しにするわけにもいかない。そう思い、私は家で待っていると言ったのだが、由乃はそれを許さなかった。

「だって、この足だし……」

「だからだよ!
もし詩織が人質にでも取られそうになったら、その足じゃ逃げられないでしょ!」

「でも、天野君と2人きりでデートできるチャンスなんだよ?」

「それはまだいくらでもチャンスがあるかもしれないからいいの!
詩織が死ぬ方がよっぽどダメ!」

「……天野君、何とか言ってあげて。」

「えっ」

これはもうお手上げだ。いくら私が言っても、由乃は折れてくれないだろう。ということで天野君に助けを求めれば、彼はピクリと肩を震わせ視線をさ迷わせた。天野君の口から言ってくれれば、由乃も折れてくれるかもしれない。そう思ったのだが、

「僕も、来ればいいと思うよ天草さん。」

「え……」

予想外の言葉に私は目を丸くした。まさか天野君までそんなことを言うなんて。由乃は天野君の言葉に喜んで私を連れていく気満々だし……。もう、どうにでもなってしまえばいい。今回は私が折れなければいけないらしい。

「……わかった。じゃあ行くよ。
でも私歩くの遅いよ?」

「それなら大丈夫!」

意気揚々と言った由乃はどこかに走り去ったかと思うと、車イスを持って戻ってきた。まさか、私にこれに乗れというのか。なんだか抵抗があるのだけれど。案の定、肩を押して私を車イスに乗せた由乃は、遊園地に向かって歩き出した。なんだか大変なことになったぞ。
ここからでもよく見える観覧車を眺めながら、私はため息をついた。




「はっ、速いよ由乃っ!
ちょ、こわっ……ひぃっ!」

遊園地について数時間。由乃に付き合わされて絶叫マシンばかり乗せられて完全にダウンしてしまった天野君のために、飲み物を買いに行こうと走り出した由乃。由乃は私の車イスを押しているから必然的に乗っている車イスのスピードは増すわけで。ベルトがないぶんこっちの方が絶叫マシンより怖いし危険かもしれない。

「とーちゃくっ!」

「し、死ぬかと思った……」

どうやら売店にたどり着いたようだ。車イスにしがみつくことに必死だった私は、ほっと息を吐き出した。飲み物を買う由乃の後ろ姿を見ながら車イスにもたれ掛かる。

「一応聞くけど、オレンジジュースでいいよね?」

「うん。」

基本ジュースとなれば100パーセントのオレンジジュースを好む私。それを知っている由乃は、私の返事に満足げに頷いた。
危なっかしく3つのジュースを持ってくる由乃に手を伸ばし、ジュースを受けとる。手と膝を使えば安定もするし、大丈夫だろう。だけど走るのはやめてね。今度は私、車イスにしがみつけないから。
その思いが通じたのか、由乃は今度はゆっくりと歩きだした。

「足、痛くない?」

「大丈夫。
でも、車イスはちょっと肩身が狭いかな。」

「だって詩織と一緒に遊園地行きたかったんだもん!
次は足が治ってから来ようね。」

「そうだね。」

頷きながら、私はテーピングのせいで太くなった足首を見た。足がなんともなくても、由乃は私を遊園地に誘ってくれたのだろうか。やっぱり、天野君とデートしたかったんじゃないだろうか。そんなことを考えてしまい、私は慌てて頭を振った。天野君に嫉妬はしない。そう決めなければ。今楽しいのは事実なんだし。

「詩織?」

「なんでもないっ
休憩したら次あれ乗りたいな。」

「本当!?
私もあれ乗りたかったの!
そうと決まったら急がなきゃっ」

「あっ、あっ、ゆのっ、スピードアップはほどほどにぃっ!」

そんな会話のせいで結局また速くなってしまった車イスのスピード。私はせめてもの方法と背もたれに背中を押し付けて耐えた。天野君ごめん、私のせいでまた絶叫マシンにのらなくちゃいけなくなっちゃった。それにしても由乃は走るのが速い。急停止でもされたら絶対私飛んで行くよ。なんだっけあの……慣性の法則で。




「ユッキー!」

「な、なんで私が息乱してるんだろ……」

走り出すとあっと言う間に天野君のもとにたどり着いたが、体に力を入れすぎて疲れてしまった。やっと脱力できてほぅっと息を吐き出す。対して由乃は息ひとつ乱していない。さすがだ。

「由乃、次はもう少し怖くないものに乗るべきだと思うんだ。」

「はい、飲み物。」

「ちょっと聞いてる?」

由乃に言われ、私は天野君の主張に少し申し訳なく思いながら飲み物を差し出した。次も絶叫マシンになりそうだよ天野君。でも本音を言うと私も絶叫マシン好きだからジェットコースターとかたくさん乗りたいんだ。

「次はあれ乗ろユッキー
詩織が乗りたいって!」

「え……、」

「あ、いや……ご、ごめん。」

恨めしげな天野君からの視線を避ける。その視線を私に向けたまま由乃に引きずられていく天野君に、私は手を合わせて頭を下げておいた。でも一回転するジェットコースター一度でいいから乗ってみたかったんです。楽しみで緩む頬を隠しつつ、私は車イスを自分で漕いで由乃と天野君を追いかけた。

その後、いろいろなアトラクションを楽しみ、由乃の悪戯に苦笑したり、やっぱり天野君に嫉妬してしまいながら時間は過ぎていった。お化け屋敷は死ぬほど怖かったし、由乃に抱きつかれる天野君はすごく羨ましかったけれど、おばけは作り物だと思えばなんとか……否、でももう2度と行きたくない。

「あ」

遊園地内を歩き回っていると、由乃がふと声をあげた。視線の先にあるのはプール。私はさっと顔を青くした。まさか、まさか由乃……

「次はここ入ろ!」

やっぱりー!
天野君の静止も無視して、由乃は歩きだした。今回ばかりは天野君に賛成だ。私は咄嗟に車イスにブレーキをかけた。

「っ、詩織?」

当然車イスを押していた由乃の足は止まる。天野君の顔がパァッと輝いた。参戦するよ天野君。と意気込んで見るものの、本当に行きたそうにする由乃を見ていると強気でもいられない。えぇい、負けるな私!

「い、いや、あのさ……
これは止めようよ。」

「えー!
どうして?」

どうしてって……
由乃の真っ直ぐな瞳に射抜かれて、私は視線をそらした。かわいいよ。由乃すごくかわいいよ。怯みそうになっている私を察してか、さっきから天野君から「頑張れ」という視線が痛い。

「だって、水着になるんでしょ?
は、恥ずかしいよ……」

言えば、隣で天野君が大きく頷いた。ほら由乃、隣見て隣。だけど、いつものことながら、私の主張は由乃の笑顔と発言によってあっさりとないものにされてしまうのだ。

「今さら何言ってるの!
詩織の体はもう全部見たことあるからいいでしょ!」

「え!?」

「ちょ、ちょっ由乃っ
それは言っちゃダメなやつ……!」

そ、それはあの先日のあの事を言っているのか恥ずかしい。私が顔を真っ赤にするなか、天野君は目と口をあんぐりとあけて私たちを見た。純粋に小さい頃一緒にお風呂入ったことがあるから、とかに勘違いしてくれればいいのに!

「あれ、そうだった?
ということでレッツゴー!」

「え、え、いろいろと待ってよー!」

天野君ごめん、私には無理だった。いろいろと待ってほしいのはわかるけれど、今は待てる状態ではないみたいだ。天野君の手を引き、私の車イスを押し、由乃はプール場へと向かっていった。本当にどうしよう……。




「詩織ー、まだ?」

永遠にまだだと言いたい。
バリバリのビキニを選んだ由乃は、何を思ったか私のまでそんな水着にしようとするものだから全力で止めた。なんとか自分で選ぶことにはなったが、なんとも憂鬱だ。足がもっと酷い怪我なら、今頃服を着て2人をはたで見ているだろうに。はぁ、とため息をついて、私は比較的露出の少ない、服のタイプの水着を選んだ。これなら下はズボンだし、上はキャミソールだし、ギリギリオッケーだ。
着替えを終えて、由乃の元へ向かう。あぁ、由乃のビキニ姿、遠目からでもすごくかわいいしスタイルがいい。自分の涼しい胸元は見ないフリをして、私は片足を引きずりつつ早足に歩いた。

「遅いよー!
あ、そんな水着選んで!
絶対私が選んだやつの方がかわいかったわ!」

「勘弁してよ由乃。
私由乃みたいに見せられる身体持ってないもん。」

「もー。
仕方ないな、今日は許してあげる。
ユッキーが待ってるよ。
行こっ!」

「待って待って!
私走れないっ」

さっさと行ってしまう由乃に静止をかけ、私は慌てて片足で跳ねながら由乃を追いかけた。
「あ、そうだった」と振り返った由乃は足を止める。なんとか追い付いた私は、由乃の肩に手をおいて、ゆっくりと片足をおろした。

「もう、天野君のこととなるとこうなんだから。」

「ごめん。
じゃあおんぶするね。」

「えっ、あ、ちょ……っ!?」

私が言葉を理解するより先に、由乃は私を背負った。軽々と立ち上がることが出来たのは、きっと私が軽いとかじゃなくて、由乃が力持ちだからだろう。いや、そんなことを呑気に考えている場合じゃない。
私を背に乗せた由乃は、やっぱり走り出した。由乃の動きに合わせて、私も上下にガクガクと揺れる。私は咄嗟に由乃の首に腕を回し、しがみついた。

「詩織いい匂いっ」

「いぃっ、今はそんなこと言ってる場合じゃぁあっ」

あ、でも由乃もいい匂い……。っいやいやだからそんな場合じゃあないんだってば!
目的のためなら手段を選ばない由乃らしいけれど、こんなの恥ずかしいし、さっきからしゃべる度に舌が揺れの犠牲になっている。明日には口内炎だらけかも。

「ユッキー!」

「ゔっ、はっ……と、止まった……」

どうやら天野君の元にたどり着いたらしい。やっと揺れがおさまった。由乃の背中から顔を出してみると、天野君も木の影から似たようなことをしている。そうしたくなるよね、わかるよ。私は、由乃の後ろから天野君に同情の目を向けた。なんだかこの数十分で天野君のことをよく理解出来るようになった気がする。
由乃に無理やり引っ張りだされた天野君は助けを求めるように私を見てきたが、全力で気づかないフリをさせてもらった。
まだまだ1日は長いよ、天野君。




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