My secret is taught.

「む、むりむりむりっ!
絶対無理!ダメだってばっ」

「詩織スタイルいいんだから自信持って!」

「よくないっ!
自信なんか持てないっ!」

プールサイドでもみ合う私と由乃。こうなってしまったのは、服タイプの水着の下がビキニタイプの水着だとバレたからだ。気づいた途端キャミソールを脱がしにかかった由乃に、私は必死で抵抗していた。
観察力ありすぎるよ由乃。水着の上から見える体のラインで気づくなんて。今日ばかりはそれに感心していられない。
キャミソールを捲りあげようとする由乃の手を必死で押さえる。天野君は私達のやり取りをあわあわと落ち着きなく見ていた。さっきから由乃の力に負けて見るに耐えない脇腹が見え隠れしているから、あまり見ないで欲しいのだけれど。

「絶対こっちの方が可愛いよぉっ」

「可愛くない!
見せられないもん!」

「ユッキーも見たいよね?」

「えっ!?」

「天野君に聞くなぁっ!」

顔を真っ赤にした天野君に、私もさらに顔を赤くして抵抗する。足を怪我していなかったらもうちょっとまともな抵抗が出来ただろうに。今さら悔やんでも後の祭り。
騒がしいからだろうか、周りの人がチラチラとこっちを見ている気がする。羞恥から目を閉じたその瞬間、

「隙ありぃっ!」

「っうわぁ!?」

キャミソールを捲ろうとしていた手がパッと離されたかと思うと、勢いよくズボンがさげられた。慌ててズボンをあげようとキャミソールから手を離せば、次はそっちをすっぽりと脱がされてしまう。天野君が悲鳴に近い声をあげて目を手で覆った。
今までのもみ合いはすべて由乃の策略だったようだ。してやられた。あっと言う間にビキニ姿になってしまった私は、何とか片方だけでも取り返そうと手を伸ばすが、由乃はキャミソールとズボンをあろうことか流れるプールに投げ込んだ。

「あー!!」

「あらら、流れちゃったね。」

「流したんでしょ!
もー、こんなので歩けないよぉ……」

ケタケタと笑う由乃を睨み付けてから、私はなんとかして体を隠そうと身をよじった。それを見た由乃はパッと笑顔を浮かべて私の手を引く。「え、え、」と戸惑いの声をあげれば、由乃は「見られたくないなら入っちゃえばいいんだよ」とにこやかにいった。嫌な予感がする。案の定、プールサイドまで引っ張られた私は、背中を押され温水の中にダイブした。

「……ぷはっ、由乃っ!!」

「ユッキー!
私達も入ろうっ!」

「え、あっ、ちょっと由乃っ!」

怒気を含んだ声で由乃を叱りつけようとしたのだが、由乃は、戸惑い、未だ目を覆ったままの天野君の手を引いてプールに飛び込んだ。水しぶきを浴びながら、私は小さくため息をついた。
もう、やりたい放題やるんだから、由乃は。昔からこんな由乃に振り回されてきた私だから、慣れっこといえばそうなのだけれど。水着も、ビキニと言えどスポーツタイプであるのが不幸中の幸いだろうか。

「んー
この水着サイズ合わないなぁ」

その発言は嫌がらせなのか。私が由乃の水着を着たらきっとぱこぱこだろうに。ストンとした体型の私としては、羨ましい限りだよ。ムスリとして顔を半分水に浸けて由乃を睨み付けると、天野君も同じようなことをしていた。ただ違うのはその目が映している場所だろうか。

「よくこういうとこでおしっこする奴いるよねー」

由乃の胸を見て気が動転したのだろうか。急に下ネタを言い出した彼に、私は少し後ずさった。でも、由乃のことだからそんな天野君にも何かしら反応を……

「由乃?」

由乃の顔が、なんだか赤い。これが下ネタの反応?由乃らしくもない。と思った矢先、由乃の後ろを何かが流れていった。水着に見えたけれど、気のせいだろうか。まさか由乃の水着なんてことはないよね。

「水着流されちゃった……」

「うわぁーっ!!!」

そのまさかだったようだ。
どうしようっ!と涙目で見てくる由乃に圧され、私は仕方なく水着を追いかけた。

「もーっ、可愛いからってサイズもちゃんと見なきゃ!
取ってくるから待ってて!」

ついでに私の水着も探してこよう。水の中だから足の負担はあまりないし、これくらいなら大丈夫だろう。流れに身をまかせて、手で水をかきながら進む。しばらく行くと、やっと由乃の水着を見つけた。その後に私の水着をなんとか発見。流れに逆らうのは気が引けたので、私はしっかりと水着を着たうえで、プールサイドを歩いて由乃のもとに帰った。
プールサイドは水で滑って少し怖い。ただでさえ片足に体重をかけすぎてバランスが悪いのに。ゆっくり慎重に歩いていると、由乃と天野君が見えてきた。その2人の体制を認識した私は、思わず足を止めた。複雑な気持ちが胸を取り巻く。私がいないうちに何かあったのだろうか。由乃と天野君が抱き合っているように見えた。
抱き合っている2人は、周りから見ればどうみてもカップル。想い合っている恋人同士。だが私はどうだ。いくら由乃の隣を歩いていても、抱きついても、周りから見れば仲のいい友達。ただそれだけ。それが何だか悔しくて、私は無意識のうちに足の動きを速めた。
バカみたいだ。こんなのでいちいち悲しんでいたら由乃と一緒になんか居られないのに。諦めろ。開き直れ私。

「お待たせ由乃。」

「詩織ー!」

はい、と水着を渡せば、由乃はパッと笑顔を浮かべた。何故か天野君も嬉しそうにするものだから、少し悔しくなってほんの少しだけ睨み付けておいた。裸での密着は、天野君には少し刺激が強すぎたようで、気が抜けて流れていきそうになっていたのは助けてあげたけどさ。



「次はどこにいこうか。」

プールから出て、私は再び車イスに乗せられた。天野君は疲れきってしまったのかさっきからあまりしゃべらない。由乃の問いに、私は周りを見渡した。そこでふと目に入ったのはプラネタリウム。由乃が天野君を好きになった理由や、由乃伝いで天野君の過去を知っていた私は、そこを指差した。

「あそこは?」

「ユッキー
プラネタリウムがあるよ!
今度はここに入ってみよ……」

「ーーー
ここは……よそう。」

余計なお世話だったか。逃げるように歩いていってしまう天野君を不安そうな表情で見つめる由乃。なんとか安心させようと、私はなるべく明るい声で話しかけた。
日が傾き、気まずい雰囲気のなか、私の声がやけに通る。何で私が二人のためにこんなに必死にならなければいけないのだろう。私は由乃が好きで、どちらかと言えば二人を邪魔する立場なのに。自分が何をしたいのかわからなくなってきて、私は目についた観覧車に乗って来るよう二人に提案した。
私も一緒にと渋る由乃の背中を押し、私はやっと一人になってほぅっと息をはいた。
そういえば私、最近一人になることなんかなかったな。自分を整理するにはやっぱり一人がいい。

「私は由乃の味方。
由乃が幸せになってくれることが、私の幸せなんだから。」

だから私は由乃の天野君との恋を応援する。そう決めたんだ。
そう、決めたんだから。

「でも、やっぱり悔しいや……」




帰り道。突然の雨にコンビニで傘を買った。それでも体はびしょびしょだ。由乃の家に天野君も寄っていってもらうことにした。相変わらず電気は消えているので、由乃は蝋燭を取りに行った。私は天野君を居間まで案内する。さっきから何やら天野が話しかけようとしてくれているのだが、私は気づかないふりをしてもくもくと歩いた。由乃とこれからを共にするものなら、こんなにうじうじされていては困る。由乃はきっとこんな天野君を許してしまうのだろうけれど、私はそうはいかない。

「はい、ここ。」

「あ、ありがとう。」

襖を開けて入ってもらう。真っ暗なことを不思議に思ったのか、私を見上げる天野君に、「今、電気止まってるから。」と簡単に説明しておいた。ふとテーブルの上を見るとりんごが置いてある。一応お客様だし、何か出した方がいいか。りんごを手に台所に行こうとすると、天野君がやっと声をかけてきた。

「あの、さ……
天草さんは、どうしてこんな危ないことに関わろうと思ったの?」


足を止めて彼を見れば、ふいと目を逸らされた。そういえば、話さなければならないと思ってずっとほったらかしにしていた。いい機会だ。今のうちに全部話してしまおう。

「由乃を守りたいからだよ。」

「……、仲良しなんだね。」

少し寂しそうな顔をした天野君は、何を思ったのだろうか。私は構わず話続けた。

「そうだね。仲良しだよ。ずっと前から。
由乃が、大好きだから。友達としてなんかじゃなく、由乃自身を愛しているから。」

「え……」

天野君が目を見開いた。その時、足音が聞こえて私は口をつぐむ。案の定蝋燭を持って現れた由乃に、私はりんごを手渡した。

「由乃、これ剥いてきて。
一応天野君お客様だし、何かお出ししないと。」

「そうだね。
ユッキー、ちょっと待ってて。」

襖の奥に消えた由乃を見送ってから、私は再び天野君に目を向けた。動揺を隠せない様子の天野君に、私は気を使うことなんか出来ない。ただただ、自分の存在をわかってもらうだけだ。

「由乃は私のすべてなの。
私は由乃のすべてを受け入れる。由乃のためならなんだってする。
由乃が天野君を好きなら私は全力で応援するよ。よく嫉妬しちゃうけどね。
だから、由乃が天野君の味方をするなら私も天野君の味方をする。
安心して。裏切るなんてことはしないから。私は天野君の味方。
日記所有者じゃない私が動いた方がいいこともあると思うし、天野君は私を利用すればいい。
生き残るために。」

信じられないものを見るように、天野君は私を見ていた。やっぱり、私が言うことはおかしいようだ。口をパクパクと動かす天野君に小さく笑いかけると、ヒクリと肩を揺らした。

「じゃあもし、僕が神になろうとして最後に由乃を殺したら……天草さんはどうするの?」

天野君が言い終わるか否かの時、台所から由乃の私を呼ぶ声が聞こえた。お客様用のお皿をどこへやったかと言う問いに、私も台所へと足を向ける。

「……その時になってみないとわからないかな。」

その時まで私が生きてるかどうかもわからないし。苦笑して言ってから、私は部屋を出た。そのあとで、天野君が"アレ"を見てしまうことなんて、考えもせずに。



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