ここでの仕事が楽しいと言いながらも、移動することに抵抗のないらしいせい。仕方がないので、俺が交渉に行ってこようか。





団長とお世話係
第七話





とりあえず阿伏兎の所に顔を出した。

「阿伏兎―」
「団長どうしたんですか?」
「ちょっとせいのことで話があるんだけど」
「ああ、移動のことですね」
「お、よく分かってる」

阿伏兎は仕事の手を止めると俺を見た。

「最近団長のお気に入りになってるみたいだったんで、いつか来るだろうと思ってましたよ」
「じゃあ話は早いね」
「まぁ、俺もできたらせいにはここにいてほしいんですけどね」
「ん?」

何となく雲行きのあやしい話になりそうで、俺はニコリと微笑む。

「提督がどうしてもって言ってるんですよ」
「ふーん」
「この前第七師団を視察に来たときに、ちょうど厨房にせいがいたんで」
「うん」
「食事を作らせたのがいけなかったらしい」
「そう」
「提督はもうせいを抜き取る気満々なんですよ」
「それで?」
「それでって…だから諦めてくれませんかね?」
「えー?それ俺に言ってんの?」
「…そのつもりなんですけど」

阿伏兎は面倒そうに頭を掻いている。俺はとりあえずニコニコを崩さないで阿伏兎を見つめた。

「代わりの料理人はできるだけ早く見つけるんで…」
「…」
「…掃除洗濯は別にせいでなくてもこなせるだろうし」
「…」
「だいたい、せいに戦闘能力があるとは思えないし、もっと探せば団長好みの娘いると思うんで」
「…」

無言で圧力をかけてやると、だんだん阿伏兎の顔から笑みが消えた。そこで追い打ちをかける。

「どんな娘探してくるつもりか知らないけど、殺すよ?」
「…」
「じゃあ、そういうことでよろしく」
「ちょ、団長待て」
「なに?」
「提督の命だぞ?どうやって覆そうってんだ」
「なに、できないの?」
「難しいに決まってんだろすっとこどっこい」
「そう。なら俺が直談判しに行くからいいよ」
「…それは勘弁してくれ」

俺の言わんとすることを理解したらしい。阿伏兎は心底疲れた顔で溜め息して、

「今からちょっと出かけてきます」
「そう?行ってらっしゃい」

俺は見送った。話の分かる部下を持って俺は幸せだな。
上機嫌で部屋に戻ると、ちょうど掃除が終わったらしいせいと目が合った。

「あ、掃除ありがとう」
「はい」

嬉しそうに頷くせいを見て、俺も笑った。その時、

カサッ

「ん?」
「は!」

同時に気づく。黒い影。

カサカサ…

せいが真面目くさって声をあげる。

「団長、Gジェット装備」

せいってGを見ると性格変わるのだろうか。俺も叫ぶ、

「せい、スリッパ装備!!」
「なんでですか!」

走ってGジェットに手を伸ばすせいから、素早くGジェットを奪い取る。

「あ!」
「せい、スリッパ装備!!」

ぱちくりと瞬きする瞳を覗きこんで笑いかける。

「スリッパ」
「…もう!」

せいは眉間に皺を寄せながら、駆け足でスリッパを取りに行く。少し待てば片手にスリッパをはめた彼女が戻って来て、

「ゴキめ、成敗してくれる」

と戦闘態勢に入るのを見て俺は笑った。





20111013

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