せい。俺のお世話係の名前である。黒い髪、黒い眼、おとなしい性格、無口、おっとりした眼差しと、ゆっくりした動作。実はつい最近まで、俺は彼女の名前すら知らなかった。いつも部屋をお掃除してくれる女の子という認識しかなくて、あまり良い意味でなく空気のような存在だったのだ。彼女はとうてい第七師団に似つかわしくない存在だと、今でも疑わない。





団長とお世話係
第一話





彼女の発する言葉は「失礼します」「お掃除終わりました」の2種類だった。軽く礼をしてお掃除を始める。また礼をして退室していく。言葉を交わすどころか、目すらろくに合ったことがない。ずっとそんな関係で、これからもそういう関係のはずだったのに、ある日のこと、

カサ…

「ん?」

ふとした物音に顔を上げると、白い壁に黒い影。

「あ」

俺はそっとGジェットに手をのばす。そうGが壁を這っていたのだ。あれだけは手刀で仕留める気にはならない。ある意味宇宙最強の生き物である。すぐに殺してしまおうとしたのに、

コンコンコン

「失礼します」

ちょうど掃除の時間もきたようで、入ってきた彼女は礼をして、そして目を見開く。

「!」

俺と同じように黒い影に気づくと、

「はっ」

そう言葉を零してすぐにどこかへ駆け出したのである。

??

よく状況が呑み込めず、Gジェットを片手にかたまっていれば、

「すぐに退治します」

彼女は駆け足で戻ってきた。その片手には何故かスリッパが装着されていて、

「え」

俺はよく理解できないまま、キリっとした表情の彼女を見た。けど、スリッパを構えた彼女は少しずつGに接近している。せめてGジェットくらい装備した方がいいと思ったのだが、ちょっと面白かったので、俺はそっとGジェットをベッドの影に隠したのだ。
いったい、何をしようというのだろう。
彼女はじりじりとGに迫るけれど、やはり恐いのか迷いがあるのか、その足はなかなか思い切り踏み出さない。若干じれったく感じて、やっぱり自分で退治しようかと思ったのだが、

カサッ!!

先にGが動く。やつは羽を広げた。
すると彼女の足がするりと動く。くるりと振り向いてこっちに走りだす。

「団長危ない!!」

そのまま抱きつかれたかと思えば、ベッドに押し倒された。なにこれ。見えた天井をGが横切っていく。

「おのれゴキめ!!!」

おのれゴキめ???
真面目くさって叫んだのはもちろん彼女である。驚いたのは俺である。あれ?こんなこと言う子だっけ?というか、あんな俊敏な動きができる子だったのか。素直に驚くと同時に、再びスリッパを装着しなおして立ち上がる彼女が見えた。
そのまま壁を這うGに向かって、今度は迷いなく立ち向かう。振り上げられたスリッパの手が壁を軽快に叩いた。

パシンッ!!!

見事命中。しかし、そんな弱い攻撃で息絶えるようなやつではない。再び動き出したG。彼女の目が鋭く光った。

バシコンッ!!!

さっきよりも強い一撃。それを何発も打ち込んでいる。なにこの光景。やがてGが息絶えたことを確認するなり、ふぅっと一仕事終えた溜め息をして、

「ホウ酸団子作らなくちゃ」

そう呟いていた。俺は彼女の予想もしなかった一面に、心の底から爆笑した。





20111013

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