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「はい、月石探偵事務所ですが」


先程、リリリリと毎度毎度かなりの轟音で音を立てるこの電話が鳴ったのは、
三時過ぎのちょっとしたティータイムを終えてから程なくしてのことだった。


私の双子の姉、菜々がいつものように電話に出る。
双子の私の目から見ても、菜々は相当に頭がよく、国内でも有名なK大学に通っている。
だから、専ら電話対応は菜々になる。


私、瑠々はというと大学に進学せず、近所のバスケの強豪クラブチーム"並木ドルフィンズ"から推薦を受け、月水金と週3で通いつつ、
火曜と木曜はコンビニ、休日は菜々と共にファンシーショップ"チェリー"でバイトしている。


「…すみません。
こちらの電話少々古くて、声が聞き取りにくいやもしれませんが」


菜々が見えもしないのに、ペコリとお辞儀しつつ謝った。


恐らくこの電話の音が聞き取りにくかったり、あの轟音が出るのはそれが古い年代物だからだろう。
平成に似つかわしくない、重々しいダイヤル式の電話。


ここまで話すと黒電話を想像される方が多いかもしれないが、これは黒くない金属製の銅色だ。


なぜか、と言われれば簡単で、私達双子の母の姉…要するにはおばに当たる人物―月石栞が作ったの物だからだ。
おばは彫刻師という仕事をしており、その為か電話には立派な月と龍が施されていた。


それはさて置き、今回の依頼内容というのがストーカーについて。
近年、結構そういった相談が増えてきた。大学生の自分が言うのも何だが物騒な世の中になったと思う。


父母からの仕事(探偵)を継ぐまでは、ストーカーなんて年に一つか二つかだった。
それが今じゃ、半年に一つ二つという勢いだ。


「場所は結構近いところにあるから、明日行くわ」


菜々がそう言い、先程とったであろうメモを見せた。


事務所と宣っているものの、実際ここはあずま荘というアパートの一角だ。
このアパートは二階建てで、一つの階に四部屋ほどある。つまり全部で八部屋。
その内、私達は二回の右から数えて三番目の部屋。俗に住人の間じゃ7号室と呼ばれている。


で、どうして話さずメモを見せたのかというとアパートだから、ということにある。
ここは隣の部屋との壁が薄く、声も筒抜けになってしまう。


このアパートに盗み聞きしたり、聞いたりしても他言するような人物はいないことは重々承知しているが、
それでも個人情報の流出を抑える為、なるべく事件の場所や被害者、推理については話さないようにし、メモ書きで伝えている。


そのメモには被害者の名前が小桜美恵さんということ、年齢が二十代後半であること、
美恵さんの住まいがあずま荘から5分とかからない並木団地であることが記載されていた。


しかし、女性一人で並木団地が住まいとは…と瑠々は内心は少し驚いた。


並木団地の周辺には老人ホームやデイサービス、幼稚園や学校があり、
どちらかといえば家族や独り身の老人向けで、そういった人が8割を占めていた。


尤も美恵さんが2割に入るだけであって、それに自分たちも二人とは言えどアパート暮らしだし、そう怪しむ問題でもなかった。


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