ひばりいじり6(+後日談)


「さわだ、つなよし……」

無理矢理ベッドに縛り付けられ実験された人物とは思えぬ淫蕩な美貌が、自分の雄をうっとり見つめてきて、気恥ずかしいツナはソレをいそいそとしまいにかかった。

「しまうには早いんじゃないのかい」
「えっ」
「触らせなよ」
「えっ」

しろい指先が、ツナの自身を愛おしむ。
熱を放った雄は熱く硬く余韻を残していた。

「わひゃ、らめですってぇ…」
イった直後にいじられると、どうもくすぐったすぎる。
ツナはぷるっと仔犬みたいに震えて、雲雀の手首を掴んだ。

(お名残惜しいけど、宿題宿題…!)

「俺、これから大変なんです。生き物の研究が人間じゃなくて動物しかダメなら、帰って宿題やり直さないと!どうしましょう、なんの動物がいいかな」

(リボーン、レオン貸してくんないかなー)


**

「!…っ……知らない。きみ小さな牛を飼ってるじゃないか。それの研究にすれ、ば?……っ、」

この細い沢田の手にどれほどのパワーが潜んでいるのか。
雲雀が自分を犯していた沢田のソレを触ってみようとするのに、ちょっと手首を掴まれて、たったそれだけで全く手を動かせないのだ。

(納得できない、こいつの腕って何製?僕より腕力あるなんて)
無言でだんだん力を加えてゆく雲雀に対して沢田はへらっと笑う。
屋上で雲雀がアッサリのされてしまったのは沢田のまぐれや、自分の油断が原因ではないのは明白だ。

「ランボ?!あは、そうですね、そうしま……って、それも人間の子供じゃないですか!」

いつもの調子でくちを尖らせ沢田が突っ込みをいれる。

「天然もほどほどにして下さいよ〜…俺が一番好きな『人』はひばりさんだって言ってるでしょ?ひょっとして、信じてなかったんですか?」
「っ……」

ビクともしない沢田の強靭なからだに気を取られていた雲雀の、ふるふる震えるほど力を込めていた腕がふと脱力した。

「そ…それ、何回も言うのやめてくれる…ワケわからない」
(こいつ言動が無茶苦茶だ、ついていけないよ)

好きだなんて、本当に意味が分からない。

そうして、こんな変態に「好き」と、うそぶかれて頬に熱が集まる意味も分からない。

沢田のからだを弄り返してやろうとする考えは吹き飛んで、雲雀はただ居心地悪く、奴に背を向けてベッドに横たわった。

こいつはこう見えてひとを小馬鹿にする天才なのだ。
本気にしてはいけない。

(もういやだ。どっか行け)

**

雲雀は拗ねたのか、そっぽを向いて寝転んでしまった。

(耳、赤いなぁ)

淡い紅色に色づいた耳たぶをくちびるで挟んでふにふに愉しみたいが、もうタイムリミットが近づいている。
理科の生き物の研究を提出出来なかったらリボーンからどんな制裁がくだされるか…

「ひばりさん?」
耳に触れるか触れないかの位置で囁くと雲雀は少しだけ身じろいで、ゆっくりと横目でツナを睨んだ。

「俺、もう帰りますね」
「好きにすれば」

(なんで怒ってるのかなあ)

熱の冷めていない彼の桃尻を軽く撫であげ、ツナはベッドから降り、カバンを肩に掛けた。

「じゃあ、また明日、ひばりさん」

**



『じゃあ、また明日、ひばりさん』

帰り際に沢田はそう言って扉を出た。

『あ…そうだ』

けれど、何か忘れ物をしたかのようにベッドの近くまできて、憐れみを浮かべた微笑みで言った。

『あのね、今日の実験で、俺ひとつ分かったことがあって』
『……』
『ひばりさんは、保護の必要な生き物だと思うんです。筆でいじられたり、恥ずかしいトコ携帯で撮影されてあんなに悦んじゃうなんて、だいぶ危ないでしょ?』

(きみが、やったんだろ……)

『だから、他の悪いやつなんかにひどいことされないように、これからは俺が付きっきりで、あなたを守ってあげます!』

(きみが、僕を変えたんだ)

無人の保健室のベッド。
気だるいからだを休ませ、雲雀はシーツに顔を埋めた。

余計者が去って、静かな雲雀の並中が戻ってきたのだ。
なのに、あたまの中は、自分よりも遥かに自由で凶暴な小動物の琥珀で満たされていく。

『…たっぷり、可愛がってあげながら、ね?』

愛らしいくちびるが動いて、微かにさっきまでの傲慢な雄の香が漂った。

(いいよ。僕を満足させて)

(“僕”を知るのはこの世でひとり、きみだけだよ)

不思議な生き物という点では雲雀よりも沢田のほうが、よほどそうだと思う。
沢田が自分に対し興味を持った以上に、沢田を知りたくなっていた。

(とにかく…学ランを一着、手配しよう)

サイズは小さめでないといけない。
チンクシャのあいつに、風紀の腕章は似合うだろうか。

今頃、沢田はてんてこ舞いで宿題をやり直している。
想像して、雲雀のくちびるは無意識に弧を描いた。


(僕も、実験したいよ)

(きみのことも、自分のことも、もっと知りたいね)


二人の悦楽の実験はまだまだ始まったばかりだ。





****
※なんてことない後日談











「ヒバリ、ヒバリ、」



(此処は)

いつまでも変わらない
いつまでも美しい


(僕のいとしい居場所)


つめたい風に乗ってきた小鳥が、雲雀の肩に着地する。

「邪魔しないでよ」

雲雀が居るのは並盛中学校、屋上。
仕事で世界中を飛び回るようになってからは年に一度も来られない時もあった。
かつて、自分が治め、自分が絶対の秩序だった場所。

「ミードーリタナービクーナーミーモーリーノー」

こうして小鳥の囀りを聞いているとあれから十年もの歳月が経っているなどとは信じがたい。

(そういえば今日は日曜日だった)

十年前のとある日曜日。
この場所で、雲雀の構築した殻を粉々に打ち砕いた奴がいた。


思い出した途端に、ふと嫌な予感が脳裏を掠める。

どこかの小動物ではないが、雲雀の本能の危機感知力も特定の存在に対しては非常に敏感に働くのだ。

(いや、元・小動物というべきかも)



「うーっ、寒っ…よくこんなところでゆっくり出来ますねぇ!」

屋上の扉を開けて現れたのは、やはり、雲雀の今最も会いたくない相手だった。

「おひさしぶりでっすー、雲雀さん!」

大組織のボスとは思えぬ浮かれた挨拶に、雲雀の眉はぎゅぎゅっと不機嫌に寄った。

沢田綱吉…―――未だにどこに本性が隠れているのか掴めない男。
屋上の風に縮こまって手をポケットに突っ込んでいる。

「…なんの真似だい…その出で立ち」
「応接室ントコの引き出しに入ってたんで、懐かしくてつい、」

雲雀が訝しげになるのは当然のことで、沢田が纏っているのはなんと学ランだったのだ。

「雲雀さんにあの時貰ったやつじゃないっすよ、あれとっくに入んなくなっちゃいましたんで」

24歳の男が嬉しそうに学ランを着て、くるりと一周回って見せてくると、雲雀は無表情でトンファーを構えるしかなかった。

「!?え、な、なんですか?!」
「部外者の学校への侵入、並びに備品の使用は完全に規則違反だ」

スーツ姿の雲雀が、年甲斐もなく学ランを着込んでいる沢田を追い回す。

「あてッ、」

腹部に強烈な一撃をくわえるとそいつは大きく突き飛ばされながら、無様にしりもちを着いた。

「いったァ〜…」
「なまりすぎじゃない?」
「殺り合う気なんか無いのに酷いじゃないですかー」

ぱんぱんと尻についた埃を払い、ニヤニヤと笑う沢田。

「ねぇ。久しぶりに行きましょうよ。保健室」
「行かない。…咬みころすよ」
興味を失って背を向けると、いつの間に近付いてきたのか耳元で囁く沢田の声に、ぞくりとする。
振り払おうとしたトンファーはあの頃より遥かにしっかりと成長した手に受け止められていた。

「後ろからは卑怯じゃない?」
「その物言いは、雲雀さんらしくないなぁ」

なまってるのはお互い様でしょ。

背中にべったり張りついていながら生意気を言う、相変わらず憎らしい奴だ。

「マジに寒いんで早く保健室、雲雀さん」
「鼻水つけるな」
「ふぁい」

ズズ、と鼻をすすって沢田が雲雀の手を引く。

「雲雀さんも、一度風邪引いちゃうと、長いんですから、ね」

すっかり休日モードのうえ、学ランを着てるせいかそんなウキウキした仕草はちょっと子どもみたいだ。

おかげで殴る気も失った。

(やれやれ)

自分も丸くなったものだと思う。

無理矢理にこいつを風紀委員に引きずり込んでからもう十年、こんな関係が続いているのだ。

「寒ければ帰ればいいだろ…あったかいボスの椅子に」
「やぁですー!せっかくのオフだしオレは雲雀さんと保健室のストーブであったまって、ベッドでゆっくりして、それからは、…ねぇ……?」
「今日はしない。僕は忙しいんだ。へんなことしたら殺すよ」
「冷たいなぁ。ってか、いっつもそー言われるわりにオレはまだ生きてますけど」
「生かしてあげてるのさ。まだ実験は終わってないからね」


は?
小首を傾げる男はとっくに忘れたらしい、雲雀が彼をそばに置く理由。

(きみと居ると、僕はどんどん変わる。知らない僕に会う、)
その訳をまだ自分は知らない。
(これからも)
「…楽しませてよ?」

雲雀の言った意味を沢田は正しく理解出来たのだろうか。
妙に張り切った顔で、片手でガッツポーズを決める。

「任せてください!」

――そのおすまし顔をキープ出来ないくらい散々よがり狂わせてあげますから!――

ニコニコ小動物みたいな笑顔は無邪気で可愛い。
そんな沢田を伴って扉をくぐる雲雀のほうこそ相手の意図を掴み損ねているのだ。



琥珀が爛々と輝いてるのも知らず、今。
保健室のドアが音を立てて閉まった。













*******


どうなるひばり。





[ 14/14 ]

[*prev] [next#]


→top





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -