不器用なきみが、
「エステリーゼ様、足元お気をつけ下さい」
「ありがとうございます、フレン」
なんだなんだ自然に出来てしまうこの感じ。
躊躇いもなく差し出す手と、
差し出されたソレを躊躇いもなく取る手。
私はタン、と1つの段差を降りた。
********
旅の途中、一般市民は通らないであろう整備の行き届いていない道を歩いているとそんな場面に出くわした。
「ああいうのを照れないで出来るフレンってすごく格好いいよね」
立ち止まって同じようなことを考えていたカロルに続き、私とユーリもそこで足を止める。
『奇遇ねカロル。私も今まさにそれを思ってた。確かに道は危ないけど、あの行動はなかなか出来ないわ』
「あ、名無しもそう思う?」
「けど、転んで怪我でもしたら大変なんだから当然っちゃ当然だろ」
何あたり前のことを言っているんだと言わんばかりのこの表情。
『私、この旅の中でそういう気遣いをまだ一度もされた覚えがないんだけど』
「名無しはお姫様じゃねぇだろ」
「それに名無しは守られるっより守るタイプでしょ…っ…て、…うわぁっ!?」
『ちょちょちょ!うわびっくりした!!』
ユーリとカロルによる全くもって反論の出来ない2コンボにダメージを受けいると隣を並んで歩いていたカロルが突然躓いた。
前のめったカロルの腕を反射的にグイッと持ち上げてやることで、どうやら顔から地面に突っ込むことは免れたようだ。
「名無し…あ、ありがとう…」
『本当気を付けてよね』
…………ってやだ私イケメン。
「言ってる傍から頼もしいな、名無し」
『誉め言葉として受け取っておく、ありがとう』
笑いながら先を歩いて行ったユーリの背中にそう返してやった。
そりゃエステルみたいな女の子に憧れたりもする。
だけど、確かに私はただ守られるような人間ではない。
ふわりとした可愛らしい女の子よりだいぶ逞しくもある自分ともう何十年と付き合ってきたのだ。
ま、それが下町育ちの女ってモンですよ!
………と、完全自己解決して私もユーリに続いたが、
『………え、』
私はすぐに立ち止まる。
「ほら名無し、この先危ねぇぞ」
何故なら少し進んだ先に居たユーリが私に手を差し出してきたからだ。
これはもしかして、いや、もしかしなくてもさっき私が憧れていた光景である。
「何で笑うんだよ」
『…え?いや、フレンと違って自然じゃないなぁって思って』
笑いながら手を伸ばせば「うるせーよ」という言葉と共に手を掴まれてしまった。
憧れていたシチュエーションは、
思いの他、恥ずかしくって、すごく嬉しいものだった。
不器用なきみが、
だいすき。(名無し、ユーリ、何やってるの…?)
(さっきのフレンとエステルの真似)
(へぇ…)
(おい、カロル先生がドン引きだぞ)------------------
20131110.haruka
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