寒い日の温まり方






宿で朝食をとる凛々の明星一同だが、そこにはひとつだけ空席があった。






「そういや、名無しは?」



「ま、まだ布団の中だと思います…」





気まずそうに答えるエステルに対し、問ったユーリは怪訝な表情を浮かべた。





「布団の中?」




「叩き起こせばいいのにエステルってば可哀想だって言うのよ。だから置いてきたってわけ」





エステルを横目で見ながら、リタは朝食のパンを口へと放る。






「置いてきたわけじゃないです!後10分したら起きるって言ってたじゃないですか!」


「そう言ってずっと寝てるパターンでしょ」





「そ、そうなのでしょうか………」





見兼ねたユーリはそれまで持っていた左手のスプーンを置いて立ち上がった。






「しょうがねぇな、ちょっと叩き起こして来るから鍵くれ鍵」






「えっでも着替えてたりしたら大変なので私が…」







「見慣れてっから問題ねぇよ」








「あ、じゃあ、はい」



「おう、サンキュ」










そう言って階段をタンタンと登って行くユーリの後ろ姿を皆はただ、見つめていた。












「え、ねぇ、今ものすごい発言したよね、青年」







――――――――
―――――
―――






寒い。


あぁ、寒い。


ここ最近、寒くてしょうがない。




もうすぐ秋も終わりで冬になりつつあるのだから、普通に考えたら寒くなって当たり前なのだけれど、私は寒いのには滅法弱かった。





エステル達が起こしてくれたのは大変ありがたい、の、だ、が!!

私は少しでも布団の中で温まっていたいので後で行くとだけ伝えた。




行かなきゃなー行きたくないなー、というふたつの気持ちで葛藤していると、チャイムが鳴ることなく部屋にガチャガチャと鍵をあけて人が入って来るのがわかった。





ちなみに私はドアには背を向けているので誰が入ってきたかはわからない。




寝返りをうちたいけど、その拍子で布団に寒い空気が入ったらこれまで温めて来た布団の中の温度が一気に下がってしまいそうで、それはしなかった。








「名無し」





振り向かなくても声でわかる、そこに居るのはユーリだ。

多分私を起こしに来たのだろうけど、一番容赦のなさそうなのが来た…!!





『無理、寒い、あと5…いや、あと20分お願いします!』


「いいから起きろ!」





バサァッ!!





『!?』




それは一瞬のことで何が起きたのかわからなかったが、

わざわざこっちに周ってきたであろうユーリの呆れ顔がハッキリと見えて、その後、すぐに私は自分を抱きしめる様にして両腕をガッと組んだ。






―――布団、剥ぎ取られた。






『うあああああ!寒い寒い寒い!やめてよお母さんんんん!!』


「誰がお前の母さんだ!!」



『間違った、ユーリ!布団返してー!!』







「ってかおまえ本当に着替えてなかったのかよ…!朝飯食ったらすぐ此所出るんだぞ?」



私の格好を見るなりドン引いたこの顔。



『だって寒いんだもん!』





布団の中の温度を上げて、その中で着替えるつもりだったのに、それもユーリのせいで根こそぎ持っていかれてしまった。





「寒いのは皆同じだろ?ゾフェル氷刃海乗り越えたくせによく言うぜ」


『やーめーてー!余計に寒くなってきたー!ユーリの馬鹿!』




すると小さく舌打ちをしたユーリは、私の固く結ばれた腕を無理矢理ほどき、そのまま私の手首を掴んでグンッと自分の方へと引っ張った。



嫌でも私は起き上がる体制となる。






「とにかくだ!さっさと飯食いに下降りるぞ……ってお前冷たっ!!」






私のこの冷え性っぷりに驚いて手を離そうとしたユーリだったけれど、私はそれをさせなかった。

それは何故かというと、もっと温かいものを見つけたから。



人肌ってこんなにも……!!!!




気付かれて突き飛ばされる前に、私は両腕をユーリの首に回して、ユーリの体温を感じるべくおもいきり抱きしめたのだ。








『ユーリ温かい!人間湯たんぽ!』





「……オレ的にはこの体制が辛いわ、おまえの体温は冷たいわで最悪な状況なんだがな」








『はー幸せー…布団よりあったかいよ…ユーリー…』




「おい、名無し、いい加減…」






ユーリの顔は見れないけれど、きっと先程と同様に呆れた顔をしているに違いない。








『ね、もう布団要らないからさ、このまま私をお姫様だっこしてて欲しいな。そうしたら私もユーリも温かいでしょ?』




「しねぇよ、ばーか」










『じゃああと1分だけこうさせて』



「……1分だけな」





『うん』







ユーリは優しい。




そんな彼の優しさに甘えてしまう私も私だけど、今日だけは存分に甘えさせてもらおう。









正確に1分なんて私もユーリも測ってはいないけれど、私の背中に回されたユーリの手が離れることで、あぁもう終わりなんだと悟った。


そして、私もユーリに回していた手をほどくと、そのすぐ後で左手の頬に温もりを感じることとなった。







ユーリの右手が、私の左頬に添えられている。





「名無し」






そこには呆れ顔ではなく、すごく優しい表情をしたユーリがあってそんな姿に見惚れて、あぁ私は心からユーリが大好きなんだと改めて思う。






私もユーリ、とだけ呼び返した後、静かに目を閉じた。













唇に感じるのは温かくて優しい君の温度。












(どうだ、少しは温まったか?)
(……お陰さまで)


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雪の降る地域に住んでる私にとっては今時期からの布団の中の温度が大事なんだよ(^q^)
おまけ

20121124.haruka

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