似鳥作品‖伊神×葉山
「酒は呑むとも」の翌朝。葉山視点。 ズキズキ、という表現がぴったりくるような頭の痛みで目が覚めた。 昨日は確か、演劇部の人達が酒盛りを始めて、僕も半ば無理矢理飲まされて、それから…ダメだ記憶がない。取り敢えずこの頭痛の原因は間違いなく二日酔いだ。そう結論づけたその時、ふとあることに気付く。
…なんで僕、上しか着てないんだ。 自分が着ていたのは、確か備え付けの浴衣だった筈。では、このYシャツは一体。きょろきょろと辺りを見回して、あるもの…いや、ある人が視界に入る。見なきゃよかった、と後悔したが既に遅かった。
「い、伊神さん…?」 恐る恐る出した声が酷く掠れているのに気付き狼狽する。眉間に皺を寄せて「ん…、」と声を漏らす人物は、よく見知った人物――伊神さんだった。暫くして目が覚めたようで上体を起こす。掛け布団が重力に従ってずり落ちて、上半身が露わになった。 …意外と筋肉ついてるんだな。…って違う、そんなことは今はいい。何で上半身裸なんですか、え、ちょ、伊神さん、
はくはくと口を開閉させている僕に気付いたらしく、伊神さんはふあ、と小さく欠伸をして僕の方を向いた。
「ああ、起きたの。おはよう。」 「お、おはようございます…。あの、伊神さん、なんで上何も着てないんですか…?」 「だって君が着てるじゃない。」 「じゃあ、このYシャツは、」 「ん?だから、僕のだけど。」 「なんで僕が伊神さんの服を…?」 「君の着てた浴衣、ベタベタだったし。」 気持ち悪いだろうと思って、洗っといたよ。乾燥も終わってるだろうから、着替えれば?ああ、コインランドリーの料金は払っといたから気にしないで。因みに場所は廊下の突き当たりを右に曲がった所で、洗濯機の番号は4番ね。 こともなげに言う伊神さんの言葉に狼狽する。依然として何か言っているようだったが殆ど聞こえていなかった。
待て待て待て。今、この人はなんて言った?浴衣がベタベタだった?何故? 考えれば考える程に絶対に認めたくない可能性が深く首を擡げてくる。いや、しかし、いくらなんでもさすがにそれはない筈だ。必死にある可能性を否定する要素を探す僕に追い討ちをかけるように伊神さんが口を開く。
「…昨日、大分酔ってたよね、君。」 「……全然、記憶がないんですが。僕、何かやらかしました…?」 「いや、別に。ただ、随分積極的だったから。」 まさか、君からあんなことするなんて思わなくて。 可笑しそうにくつくつと笑う伊神さんに、頭の中が真っ白になる感覚がした。
***** この後わたわたする葉山君を見て、伊神さんは楽しみます。昨日悶々とさせられた仕返しです。 浴衣がベタベタしてたのはお酒を零したから、というやっつけ設定。 (110130)
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