どうしよう。
テーブルの上に並べたのは、どれも蔵ノ介の好物ばかり。
用意してあった食材で、一通り作ってはみたものの、招いた相手は来ないだろう。
「だいっきらい、なんて言っちゃったしなぁ……」
こんなふうに喧嘩になるなら、普通にチョコ渡しておけばよかった。
元々はそのつもりだったんだし。
そんな私が急遽予定を変更した理由は、先週末偶々聞いた女の子たちの会話。


『なー、今年どないするー?』
『何を?』
『白石君のチョコやチョコ!』
『あー、五十鈴川さんと付き合いだしてもうたもんなぁ』
『流石に彼女持ちに渡すんも……って、あ!』
『なんやねん、急に』
『匿名で下駄箱に入れておけばええんちゃう!?』
『なるほど、そしたら白石君も誰からのかわからんくて返却不可になるっちゅうことやね!』
『きゃー、ウチって頭ええ!』


とまぁ、きゃぴきゃぴとした会話を聞いてしまった私は考えたのだ。
そういう子たちがこの学校にどれだけいるのだろうかと。
私と付き合いだしてからも蔵ノ介の人気が健在なのは百も承知。
そんな彼が、さっきの子たちが言ってたみたいな、半強制的に受け取らざるを得ないチョコを貰ってしまったらどうなるだろう。
……確実にチョコなんてみたくなくなるだろうな。
そう思い至って、蔵ノ介に次ぐ人気を誇る光君に相談しに行ったのだ。

『まぁ、確かに貰えるんは嬉しいですけど正直処理には困りますね』

光君曰く、一応貰えるもんは貰っておいて、家族や親戚、さらにはご近所さんにお裾分けして消費するらしい。
蔵ノ介も似たようなことをやっているとも教えてくれた。
『ちゅうかひな先輩は、紛うことなき部長の彼女なんやから貰わんでって言ったればええんやないですか?』
私だって最初はそう思っていた。
けど、さっきの会話みたいな人だっているから、蔵ノ介に受け取るなっていうのは無理難題を押し付けているのも同然だ。
自分の考えとそこに至るまでの経緯を説明すると、光君は先輩は優しいですね、なんて笑顔を返してくれた。
そして、どうせならサプライズ仕組んでやったらどうです、という彼のアイデアも参考にして、パーティーを開くという結論にたどり着いた。
蔵ノ介の好きなものをたくさん作って、デザートはチョコじゃなくてフルーツたっぷりのババロアかゼリーにしよう。

蔵ノ介の驚いた顔を想像しながら、下準備をしていた今朝が嘘みたい。
このまま別れようなんて言われたらどうしよう。

ぴんぽーん

インターホンが鳴らされる。
蔵ノ介に送ったタグに書いた時間より、1時間くらい早い。
どうせ宅配か何かだろう。
そう思って玄関を開けた瞬間。

扉を閉めるまもなく抱きすくめられる。
胸いっぱいに広がる蔵ノ介の香り。
突然の出来事に戸惑う私の上から、押し殺したような声でごめんと降ってきた。

「ひなの気持ち、疑うてしもて、ホンマに、ごめん……!」

抱きしめられてる腕の力が増す。
「お願いやから、嫌いにならんといて……」
抱きしめる力とは裏腹に、弱々しい蔵ノ介の声。
物理的な意味だけでなく、胸が締め付けられる。

「私も……、大嫌いなんて言ってごめんなさい……!」
大嫌いなんてウソだよ。
だって私は誰よりも何よりも。
「大好きだよ、蔵ノ介」
腕の中でそう言うと、一層強く抱きしめられた。


それからどれくらい時間が経ったのだろう。
お互いがお互いの温もりに満足して身体を離したときには、2人とも顔が真っ赤で。

「蔵ノ介、林檎みたい」
「ひなやっておんなじようなもんやで」

顔を見合わせて小さく笑う。

「ごめんな、ひなからの招待状に気づかんくて」
「ううん、私のほうこそごめんね。ちゃんと言えばよかったね」

2人してごめんといえば、あっという間に元通り。

「せっかく来てくれたんだもん、ちょっと早いけど始めようか」
「そうしてくれると有難いわ。学校から全力疾走したせいかお腹ぺこぺこやねんもん」

リビングに案内すると蔵ノ介の目が大きく見開かれる。
「これ……!」
「蔵ノ介の好きなもの一通り揃えてみました」
どう?と尋ねた私に返されたのは、答えがわりのハグ。
「ひな愛してる」
そう囁いてくれた蔵ノ介が尚更愛しくなったバレンタインだった。


HAPPY VALENTINE’S DAY




翌日
(ほーん、そりゃ良かったな。ちゅうか白石、俺に言わなあかんことあるんちゃう?)
(あぁせやったせやった。昨日はえろう迷惑かけてもうて悪かったな。来年はちゃんとひなからチョコ貰える約束もしたから安心してや!)
(ほーん、ちゅうかえらい軽ないか!?)
(え、謝っとるんに文句あるん?せやったらお詫びの消しゴムやらへんけど?)
(それはバレンタイン限定のチョコ型やんけ!文句なんか言うてへんからそれくれや!)
(ほな、来年はひなのチョコ貰わへん言うたらやるわ)
(わかったわかった……ってなしてそうなるねん!)
(謙也さん、アホっすわ……)




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