咽喉が渇いたので食堂まできた。あのひとにあえるかもしれないともおもった。この学校には、ここにしか自販機がない。食堂で働くあのひともここにしかいない。
 どれにしようか。赤い自販機のショーケースの中にはカラフルなカンやペットボトルの見本と、どこからか光に誘いこまれ死んでしまった羽虫がつまっている。

「水野」

 ボタンを押しペットボトルが鈍い音をたてて落ちてくるのと、名前を呼ばれたのは同時だった。でも、あのひとの声がなによりも鮮明に俺の耳にとどいた。ああ、いやになっちまう。
 あわてて振りかえれば、うれしそうに口を歪めたそのひとがいて、俺は取り出し口からペットボトルを引き抜くこともわすれてしまう。

「今日、くるか」

 このひとはどうしようもないひとだ。家にいってもいいことはない。いままでだってそうだった。でも断れない。断れないのを知っていて、このひとは俺を部屋に誘う。
 そのひとはしゃがみこむと勝手にペットボトルを取り出した。立ちあがったとおもったら、蓋をあけて茶色い液体をながしこむ。顎をあげることでさらさせた咽喉が三度蠢いた。

「じゃあ、晩飯食ったらこいよ」

 もう汗をかきはじめているペットボトルを俺の手ににぎらせると、頷きも振りもしなかった俺の首に唇を寄せた。

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