俺をすきだといったその口から、ごめんごめんきもちわるくてごめんこんなおれがとだのそばにいてごめんごめん、とかなしいことばが熱い涙といっしょにぽろぽろと落ちてきた。ああ、なんかくるしーなあ。
 左手で相良の口を塞いで、右手で真っ赤になった目の縁にたまった涙をぬぐった。これが安っぽい恋愛ドラマで、相良が女の子だったらキスして口を塞ぐところだ、なんておもったらなんかしらんが、かなしくなった。
 相良が静かになったのを確認してから、肩をゆっくり押して、もう一段階体を起こさせた。そうしたら、相良の涙がなみなみまでたまった瞳が不安とか絶望みたいなものでゆれたようにみえた。寝転がっている俺と太もものうえに跨がる格好になった相良との間には数メートルの距離もないのに、この隙間すらあけることが俺にも相良にもできなかったらしい。
 体を起こして太ももに座った相良と向かい合うかたちになった俺たちの間にあった距離はいつのまにかゼロになっていた。俺が相良にだきついたのか、相良が俺をひきよせたのかいまになってはわからない。お互いの肩に顔を埋めあった。俺にとってはさっきとは逆。でも、結局、相良のさらさらの赤毛がこしょばゆい。それに、今度は顔のかわりに俺のシャツの肩のあたりが相良の涙でびしょびしょだ。それから相良のシャツもちょっと濡れた。俺が流した、相良の涙で。

「あーあー、そんなべーべー泣くな」

 相良のきもちは知ってた。でも知ないふりをしていた。知りたくなかった。
 知っちまったらいたいから、気づいちまったらくるしいから。
 相良がずっとくるしんでるのも知ってた。
 なんかもう、いたくて、くるしくて、ため息しかでない。いや、すげえ笑える。笑ったら相良、怒るかな。

「まえむきに検討しようとおもってんだから」

 相良のでつかい肩から顔をあげて、相良の顔も俺の肩からはなす。両手で顔を包みこむように押さえつけて涙ぬぐう。ここでやっと涙の膜ごしじゃなくしっかりと目ががあう。あーあー、もう、目も鼻もほっぺたもまっ赤っ赤じゃん。男前がだいなし。

 ごめん、ごめん、とだ、これでおわりだから、おわりだから。

 おわりじゃねえよ、相良。


▽△▽△



「おれはなんでもいいよ、戸田といれるなら」

 なんだよこいつ。にやにやすんな。
 いまの相良の顔と声は金木犀なみにあまったるい。でも、あまったるいのはきらいじゃない。
 でもなんかあれだから、とりあえず相良の深緑のセーターの裾をひっぱってやった。

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