ハッピーエンドまでの長い距離
*あの世でのお話!(「碧の先に」の後)
「リリー、」 「何??」
「私は何故、此処に来れたのだろうか…」
キングズ・クロス駅のような場所―真っ白な光に包まれ、汽車も無いが―で、セブルスとリリーは白いベンチに座っていた。白い世界は、黒と赤を際立たせている。
「貴方が、優しいからよ」
白い光が眩しいのか、リリーは目を細めながら遠くを見つめていた。
「私は、人殺しだぞ」 「ええ、知ってるわ。けれども、それを望んでしようとしなかった…いいえ、したくなかったって叫んでいた貴方の心も、知ってる」
セブルスは驚いた顔で、リリーの方を向いた。リリーは未だ、遠くを見つめている。 そんな彼女の姿が眩しくて、セブルスは目を逸らした。
「犯してしまった罪は、変えられん」
二人が座るベンチの後ろから、不意に声がした。 振り向くと、ダンブルドアが穏やかな表情で二人を見ていた。
「校長…」 「ダンブルドア先生、いつの間に…?」
「つい先程、ハリーと会ってきての」
「ではポッターは…っ!?」 「大丈夫じゃ。あの子は、先へと進んで行った。本当に勇気のある子じゃ…」 「そう、ですか…」
セブルスはそれを聞き、安堵した。 自分が命懸けで護ったのだ。 ここで死なれたら、元も子も無い。
「リリーは素敵な息子を持てたの」 「ええ。誇りに思うわ」
リリーの嬉しそうな表情を見て、ダンブルドアはうんうんと頷いた。
「さて、セブルス」 「はい」
ダンブルドアはセブルスの方に向き直ると、静かに口を開いた。
「おまえは先程、何故自分が此処に来れたのか、と問うておったの」 「ええ」 「それはの、セブルス。おまえが勇気ある行為をしたからじゃ」 「は…?」
セブルスは訳が解らず、ポカンとした表情をしていた。
「いつかおまえに言った事があるじゃろう。『時々"組分け"は、性急過ぎるのではないかと思う事がある』、と」 「はい、貴方は確かにそう仰った…。ですが、私がいつそのような行為をしたと…私が、何を…」 「"後悔"じゃ」 「後悔?」 「左様。後悔とは、実に勇気の要る行為なのじゃ。自分の過ちを素直に認め、悔い改める事はなかなか難しい事での。大抵の者は、自分の過ちを正当化したがったりと、自身を護るのに必死になる。わしも、昔そうじゃった…。今思えば、現実から逃げるただの愚かな臆病者でしかなかったのじゃ」
『臆病者』という言葉に、セブルスの身体がピクリと震えた。
「つまり、"後悔"という勇気ある行為によって、おまえの魂は破壊される事無く護られたのじゃ、セブルス。それが、おまえが此処に来た理由じゃよ」
「あ…、」
ぽたり。
セブルスの瞳から、涙が零れ落ちていた。
ああ、良かった。 私の魂は、破壊されていなかった。
ずっと悩まされてきた不安から、漸く解放され安堵したのだろう。 セブルスの涙は、堰を切ったかのように溢れ出していた。
「"ホグワーツでは、助けはふさわしき者に与えられる"…。遅くなってしまって済まなかった、セブルス…」
差し伸べられた手を、セブルスは零れる涙と嗚咽を堪えながらしっかりと掴むと、ベンチから立ち上がった。
リリーは、その姿を微笑みながら見つめていた。
ハッピーエンドまでの長い距離 (嗚呼、やっとたどり着いた)
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