ミルクティー(ルサ)


「生きるって、どういう意味があると思う?」


目の前で、アールグレイを飲みながら、彼は言った。

「急に何ね」

とある飲食店で、出された甘いミルクティーを飲みつつ、あたしは聞き返した。

「いいから、ボクの質問に答えてよ」

「ん〜…」

彼は時々、このような哲学的なコトを語り、そして質問をしてくる。
正直言って、あたしにはさっぱり分からないのだが。


「あたしは…、生きるコトはちゃんとした意味があるち思うと」
「どんな??」
「そうやなぁ…。もしあたしが生きてなかったら、こうやってあんたとまた出会うコトが無かったワケやし…。そう思ったら、生きるっちいうコトは、神様から、懐かしい人に巡り逢ったり、初めて出会う人や物とかと触れ合う機会をもらう為…っていう意味があるっちあたしは思う。…伝わらんかったらごめん」
「いや、大丈夫だよ。答えてくれてありがとう」

彼から『ありがとう』と言われ、顔が赤くなるのを感じた。
照れ隠しに、ミルクティーをスプーンでカチャカチャと掻き交ぜる。


「じゃあさ、もしボクが死んだらどうする??」

「どうする…って…??」

スプーンを掻き交ぜる手が、止まった。
もし、彼が、ルビーが死んでしまったら…。




「あたしは、生きる。いや、生きたい。生きて、ルビーの分まで、人生を楽しみたい」

「へぇ…。悲しくないの??」

「それは…悲しいったぃ、ルビーがおらんくなるのは。やけど、そうやからって言ってあたしが死んでも、何も変わらんやん?ルビーが生き還るワケでもないんやし…」

「そう…だね…」

ルビーはそう言うと、カップの中のアールグレイを飲み干した。

「なぁ、ルビー?」
「何?」

「あんたはあたしにこれ聞いて、結局何がしたかったと??」

あたしがそう聞くと、ルビーは無言で微笑んだ。
何故か、幸せそうな表情。

「ルビー?」
「…確かめたかったんだよ」
「何を?」
「いや、何でもないよ」

ルビーはそう言うと、お勘定の為に財布を取り出し、席を立った。

「あ、ちょ…っ!!」

あたしも急いでミルクティーを飲み干し、慌てて席を立つ。













お店を出ると、もう辺りは夕焼けに染まっていた。

二人並んで、帰路につく。
どちらからともなく、手を繋いで。



「なぁ、何を確かめたかったん??」
「んー?知りたい??」
「うん。気になるやん」
「そうだなぁ…、」


ルビーは突然歩みを止めると、おもむろにあたしにキスをした。

ふわりと、アールグレイの香りがあたしの鼻腔をくすぐった。

「んー、やっぱりミルクティーは甘いね」
「な…っ!?///」

ぺろりと唇をひと舐めしながら、ルビーは言った。

「〜っ!!///…で、結局何を確かめたかったと!?///」

恥ずかしいのを必死で我慢して、話を本題に戻す。
ギュッと、ルビーは手を強く握った。

「あのね…、これからも、キミの気持ちが変わらないということを確かめたかったんだ」
「え…??」
「キミが、ボクを愛し続けてくれるかどうかをね」

ルビーはそう言うと、今度は頬にキスをして、あたしの手を握ったまま再び歩き始めた。


無言で歩く二つの影は、長く伸びていた。



彼からのキスは、アールグレイのほろ苦い香りがした。



だけど、ミルクティーのように甘かった。





18歳の、秋。














*****あとがき***************
要は、サファイアが自分のコトをちゃんと想ってくれているか、考えてくれているかを知りたかったんです。

 










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