ハロー、マイラバーズ(ルサ*「紫陽花」の後のお話)


*「紫陽花」の2年後のお話…














「ただいまー!!」
「お帰り、サファイア。ご飯出来てるよ」
「やったぁ!!」

フィールドワークから帰って来たサファイアは、クンクン…と、玄関で匂いを嗅いだ。

「今日は…ミートソーススパゲッティ?」
「Yes♪流石サファイア、鼻が良いね」
「当然ったぃ!」

エッヘン、と誇らしげに胸を叩いた。
可愛らしい動作に、ボクは思わず笑みを浮かべた。

ふと、彼女が泥塗れになっているのに気付く。


「でも、ご飯の前にお風呂に入らないと。そんなに汚れてたらねぇ…」
「ぅ…お腹減っとんのに…」
「だーめ!!さぁ、早く!!でないと…」

ボクは、サファイアの耳元で低く囁いた。

「ボクも一緒に入るコトになるよ…?」
「…っ!?」
「いいのかい…??」

ニヤリ、と笑うと、サファイアは真っ赤になってお風呂場に猛ダッシュで逃げて行った。
そして、扉からヒョコッと顔を出すと、

「ルビーのえっち!!イジワル!!」

と言い残し、バタンッ!!と勢い良く扉が閉まった。

「ハハッ、結婚しても変わらないなぁ…」


2年前、ボクはサファイアにプロポーズをした。

互いの親に報告すると、
『まぁ、そんな気はしていた』だの、『いつその言葉が聞けるのかと待っていた』だの、ボクのママに至っては、『もぅ、何でそんな大事な事をもっと早く言わなかったの!!今日はパーティーだわ!!早く準備しないと…』と言い、本当にパーティーを開いてしまった。
と言っても、いつも通りボクの家族とオダマキ家だけのパーティーだったが。


その後、ボク達はシンオウ地方のヨスガシティという所にある教会で、結婚式を上げた。
先輩と後輩には(ミツル君にも)招待状も兼ねた、ブレスレット、もしくはミサンガを手紙と共に送った。
勿論、ボクの手作りだ。
式の時に、皆がそれを着けて来てくれていたので、とても嬉しかった。

そして、ブーケトスの時には、ブルー先輩を始めとする図鑑所有者の女性達が、我先にと押し合いへし合いながらブーケを掴もうと必死になっていた。

結局、ブーケを手にしたのは図鑑所有者の女性群ではなく、何故かシルバー先輩だった。
『まぁ、お前女っぽいしな!!』
そう笑いながら言ったゴールド先輩が、シルバー先輩に襟首を掴まれどこかへ引きずられて行ったのを、ボク達は苦笑いしながら見ていた。
暫くして、ボロボロになったゴールド先輩と、スッキリした顔をしているシルバー先輩が戻って来た時、「なんか、ミナモデパートのデジャヴやね…」とサファイアが言った。


そして現在、ボクとサファイアは二人で暮らしている。
彼女は、以前と同じ様にオダマキ博士のフィールドワークの手伝いを、ボクは師匠と共に全国のコンテスト会場でエキシビションを行っている。
また、父さんが用事でジムに居ない時は、ボクが代わりに挑戦者と戦うことになっていた。
今の所、一度もバッジを渡していない。
それと、家事全般はボクがしている。
彼女を台所に立たせると、何が起こるか分からないしね。
まぁ、こんな感じでお互い生計を立てながら生活している。



毎日が新鮮で、幸せに包まれている。


そんな事を回想しながらスパゲッティを茹でていると、

「ルビー、お風呂入ったったぃ!ご飯ご飯!!」

ぺたぺたと足音をさせながら、サファイアがお風呂場から出て来た。


「分かったから、せめてスリッパ履きなよ。それと、髪の毛もちゃんと拭いて。先週みたいに体調崩されたら嫌だし」

スパゲッティを茹で終え、ミートソースを温めながらボクは言った。
「あ…うん…」
「…?」

今、微妙にサファイアが言葉を濁したような…。


「はい、どうぞ」

コトリ、とミートソーススパゲッティを盛った皿とフォークを、テーブルの上のランチマットに置く。

「ありがと」
「…?どうしたの、そんなに神妙な顔して…」

自分の分をテーブルに置きながら、ボクは聞いた。

「あ、えと…。と、とりあえずいただきますっ!!」
そう言うと、サファイアはゆっくりと食べ始めた。
「いただきます…」
ボクも、フォークを持って食べ始める。

最近、サファイアがガツガツとご飯を食べなくなった。
行儀が良くなったのは嬉しいコトだが、何かあったのなら話は別だ。


「ルビー…、あんね…」

暫くして、ボクが何かあったのかと聞こうとした時、カチャリ、とフォークを置いてサファイアが口を開いた。

「何?」

ボクもフォークを置き、サファイアの話に耳を傾ける。


暫く、沈黙があった。



「あんね、…たんよ」
「え…何?ごめん、聞こえなかったんだけど…」

ボクはサファイアの方に身を乗り出し、小さな声に全神経を集中させた。


サファイアは、顔を赤らめながら、ボソボソと言い直す。

「あ…あんね?」
「うん」








「赤ちゃんができたと…」
「へっ!?」

ガタッと、ボクは思わず立ち上がってしまった。

「わ、急に何ね!?ビックリした…」
「ご…ごめん…。」

そう言うと、ボクはサファイアの横に行ってしゃがんだ。

「赤ちゃんができたって、いつ気付いたの?」
「あ…。先週から体調崩しとったやろ?ルビーがジムに行った後、病院に行ったんよ。そしたら、3ヵ月やって言われたと…」

照れながら言う彼女が愛おしくて、二人の赤ちゃんができたことが嬉しくて、ボクはそっと彼女を抱きしめた。

「ル、ルビー?」
「ありがとう、サファイア…。もしかしたらボクは今、世界で一番の幸せ者かもしれない…」
お風呂上がりで、まだ完全に乾き切っていないセミロングの髪に顔を埋めながら、そう言った。

「大袈裟ったぃね…」

サファイアも、ボクの背中に腕を回した。

「大袈裟じゃないさ。本当にそう思ったんだ」

彼女の身体を、ギュッと抱きしめる。
サファイアも、強く抱きしめ返す。

シャンプーの匂いが、ふわりと香った。


「これからは、フィールドワークで絶対に無理しないでね…?」
「う…うん…」
「本当は行かせたくない。でも、それじゃキミの自由を制限してるみたいで嫌だし…。だから、自分の身体が自分一人のものじゃないって…赤ちゃんが居るんだって思って行動してね?」
顔を離し、彼女の藍色の瞳を見つめながら言った。

「うん…。…ありがと、ルビー」

微笑む彼女の頬に軽く口付けをして、もう一度抱きしめた。


「これからは家族が増えるね…」
「うん…」
「子育ては、勿論ボクも協力するから安心して」
「うん…」

二人で協力すれば、恐れるものなど何も無い。


大丈夫。
ボク達なら必ず、まだ見ぬ愛しい愛の結晶を無事に育てることができる。
そう思ったんだ。


そっと、彼女のお腹に手を添える。

くすぐったそうにしている彼女にキスをして、ボクは言った。





「愛してる」


それは、彼女と、新しい命に捧げる愛のコトバ。



ボクの声、キミに届いてるかい?


My lovers…













 










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