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第六十三夜







あの場に置いてきた藍堂が、協会側に拉致されてしまった。



『申し訳ありません、藍堂さんのお父様』



屋敷を訪れた藍堂の父親は、出迎えた珱の突然の謝罪にぎょっと面食らう。



「あの…そんな、どうかお顔を上げて…」



頭を下げる珱に戸惑いながら藍堂の父親は頭を上げさせる。



『置いてきちゃったんです、私…でも、協会側も何の罪もしてない藍堂さんに、不当な扱いは……………………多分、しないとは思います』

「…多分ですか」

『本当に…すみませんでした…』



少しの間の後自信なさげに言った珱はもう一度謝罪した。



「英はああ見えて頼もしい奴です…そう、ご自分を責めないで下さい」

『…ありがとうございます』



父親らしい顔つきで、安心させるように微笑んだ藍堂の父親に、珱も少しだけ笑った。



「藍堂センパイのお父さん!」



現れた優姫に二人は顔を向け、駆け足で来た優姫よ次の行動にぎょっとした。



「私のせいです藍堂センパイのお父さん!!」



泣きながら床に這いつくばって謝罪する優姫に珱は顔を手で覆い、藍堂の父親は血の気を引かせた。



「おやめください!純血種の君ともあろう方が、私などに膝をつくなど…!」

「でもでもでも…!!私の身勝手な行動で藍堂センパイ…!」

『優姫ちゃん…お願いだから、落ち着いて…』



どばどばと涙を流し続ける優姫に呆れつつ、珱はその肩を抱いて立ち上がらせその背中を押す。



『藍堂さんのお父様は、先に談話室へどうぞ。枢様もお待ちでしょうし…』

「え、ええ…」

『優姫ちゃんは、ちゃんとその服を着替えるよ』

「す、すみませんでした!また改めて謝罪を…」



慌ただしくしていた優姫だったが、珱に連れられ部屋へと戻ると服を着替えた。



「藍堂センパイ…大丈夫ですかね…」

『多分…一応、学園時代に藍堂さんって、協会側からの信頼を勝ち得てるし…』



紅茶の用意をするため移動する珱に、優姫も手伝うと言ってついていく。横目に伺うように珱を見つめた優姫は、墓地の前での騒動を思い出す。



「…あの」

『ん?』

「遅くなりましたけど…傷…私のせいで、すみませんでした…」



ああ、と珱は思い出す。



『傷なんて大したことないよ…どうせすぐ治るし』

「でも、ほら…痛い、じゃないですか」

『まあ…痛いね』



お湯を沸かして、カップを用意する。



『…優姫ちゃんこそ、倒れたりしたけどもう平気なの?』

「私は……」



枢の血を飲み、その血から視た記憶を思い出し優姫の目が伏せられる。



「…大丈夫です。こう見えて、血の気は多くて丈夫ですから」

『…そう。なら、よかった…』



ふ、と。感じ取った気配に顔を上げた珱は、目を細めた。



『優姫ちゃん、お茶…お願いできる?』

「え?はい…大丈夫ですけど…」

『ちょっと行ってくる』






  



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