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「己自身にも、何にも執着するつもりのない僕がーーーーけれど、彼女との時間を、僕は失うのを惜しんで……僕の中に、わずかな執着が生まれた隙に、彼女は華麗に事を為したんだ…」







「私もね、人間は嫌いじゃないよ、枢。私達はみんな人間の親から生まれた。少し…いやだいぶ異質なモノとして。けれど両親は、私をしっかり愛してくれた。私よりずっとかよわい存在なのに、命がけで私を守ってくれる両親はとても強かった」







「造られた武器からは、すぐに感情が感じ取れなくなった…ただ、吸血鬼を屠ることのみを考えるだけになったよ…」







「だから枢…命の価値を忘れたヤツが、本能の望むままあの弱くて強い命達を翻弄するのが、許せない。黙って見てなどいるものか」







「全てが収束して…残った者たちは皆、共に歩める己の家族を欲し、産み、いつか人間の表の歴史から、僕たちの存在が消えた頃ーーーー最初の仲間は、僕一人だけになっていた」



じっと珱は枢の話を聞いている。



「…思えば、長すぎる旅。とうの昔に心は痩せ枯れ…永遠に目覚めるつもりのない眠りにつくことを選んだ…」

『…それを、起こしたのが李土…なんですね…』



目を閉じた珱は、見たばかりの記憶を思い出す。そして、枢が大切に想っていた女性を思い出し、優姫を思い出す。



『優姫ちゃんは、彼女の替わり…ですか?』

「…そんな虚しい事しないよ」



視線を落とし枢は答えた。



「誰も…誰かの替わりにはなれないんだよ…」



ほんの僅かに枢は目を伏せる。



「だから別れは、いつも、きつい……」



弱々しく呟いていた枢は、ふわりと頬を包み込んだ温もりに視線を上げた。



『…失礼なことを聞いて、すみません…そんな顔をさせるつもりじゃ、なかったんです…』



後悔したように俯けた顔をしかめていた珱は、手を離そうとしたがその手に枢の手が重なった。



『…枢様…?』

「…珱ーーーー」



枢が、何かを言おうとした時だった。ふっと、珱も枢も気配に気づき視線を動かす。



『…優姫ちゃんが、起きたみたいですね』

「そうだね…様子を見にいってもらってもいいかな」

『…はい』



何かを、言いかけていたけれど…。

気になりながらも、珱は部屋を出て行き地下廟へと向かい始めたが、たどり着く前に優姫が血相を変えて走ってきた。



『優姫ちゃん』

「!珱さ…あの、おにいさまを知りませんか!?」



不安そうな瞳を揺らしながら、優姫は問いかける。



『部屋にいらっしゃるよ…行っておいで』

「っ…」



軽く頭を下げると、優姫は廊下をかけて行った。見送った珱は、また前を向くと地下廟へと訪れた。特に変わった様子のない、なんの変哲もない地下廟。ぐるりと見回すと、開け放たれていた扉をゆっくりと閉めた。





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