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「まったく。この私の獲物に刻印をつけるとはけしからん。しかも喰うだと?」
ちっ。と斑は舌打ち。
「普段ならありがたいことだが、今の状態ではそいうに友人帳を横どりされかねんからな」
「おい」
「しょうがないな。用心棒としてどいつかを呼び出すか」
「呼び出すって……」
ニヤリと、斑は笑った。
「「友人帳」を使うのさ」
目を瞬かせた二人に、斑は筆と紙を用意して器用に小さな体で筆を動かし陣を描く。
「知ってるのか」
「レイコがやり方を自慢げに話していたからな。庭に出てこの陣を書け、小さくてもかまわんが、でかいほうが負担が少ない」
言われて庭に出ると、木の棒で庭に大きく手本通りに書いていく。
「ちゃんと書けよ、間違うと変なのが出るかもしれんからな」
『え?』
「何?」
二人の進めていた手が止まる。顔を見合わせると、手本の紙を見下ろす。
「じゃあ……ここのこれ…「西」って字でいいのか?」
「違うぞ、何か「西」っぽいやつだ」
「……」
『これは「木」?』
「それは「木」っぽいやつだ」
『……』
また、顔を見合わせる。互いの顔が青ざめているのがわかる。
「『(アバウトすぎやしないか?呼び出すほうがリスクでかかったりしないだろうな)』」
不安を憶えつつ、陣を書き終える。
「よし、これは雪野が向いてるだろう」
「おれじゃダメなのか?」
「前にも言っただろう。術式はミヨの得意分野だった。この不確かな陣でやるなら、その血筋の雪野が一番向いている」
「『(今不確かって言った)』」
「雪野、白い布を羽織れ、白い着物の代用だ」
事前に斑に言われ用意していた中から雪野は白い布を羽織ると、陣の真ん中に立つ。
「相手の名と顔を知らねば呼べぬから、以前名を返しそこねた「三篠」って奴を呼び出してみるか。陣の真ん中に鏡を置いて血を落とせ。友人帳もおけよ」
『…血?』
「本来生爪一枚、歯の一本ほしいところだ。妖相手に代償なしですむと思うなよ」
代償、という言葉に、夏目はほんの少し思考に耽った。その間に雪野は指先を切り、血を垂らす。
「やるぞ雪野」
『うん』
ぱん、と雪野が柏手を打つ。
『我を護りし者よ 我がもとへ来たれ 汝の名、「三篠」』
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