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「確か昨日、この辺りで目が痛んだ…あ…!痛…」
「夏目」
昨日田沼が妖に操られ掘っていた辺りまで来ると、夏目の右目は昨日と同じように痛み出した。
「夏目君」
「いた…いたたたた、ここだ田沼!ここ…」
「ここか!?ここ掘ればいいのか!?」
「いたたた」
『今、探してるからしっかり!』
「痛…いたた」
「まってろ夏目」
一人は右目を痛そうにして、一人は一生懸命に穴を掘って…そんな騒がしい夏目達に、通りすがる生徒たちは劇の練習かと不思議そうにしていた。
「…………………っ…」
「…あ」
掘り続けていた田沼の手が止まった。
「あった!あったぞ夏目」
見つけたらしい田沼は笑顔を見せる。
「ほら、これだろ?このビンの欠片に隠れてるって妖がいってる」
田沼が土の中から見つけたビンの欠片を受け取る。
「ああ…痛みもひいていく。それだな」
あんなに痛かった右目からは、嘘のように痛みがひいた。
「ーーーーそうか、よかった」
そう笑う田沼の、土で汚れた手を見て夏目は申し訳なく思うも笑い返した。
「ーーーーうん、ありがとう」
「でかしたぞ小僧共!さあサクサク残りも探すぞ」
横暴な口調と態度の田沼に三人はぎょっとして、すぐに妖だと気づく。
「エラそうに言うな!お前はおとなしくしてろ!!」
始業ベルに一度は解散し、昼休みに花壇から一つ、放課後にプールから一つ発見した。
「待ってて、タオルもらってくる」
『私飲み物買ってくるよ』
「あ、おれが…」
夏目の声が届くより先にそれぞれ駆け出した雪野とタキ。
ーーーーガコン.
自販機から飲み物を人数分買った雪野は、夏目達のもとへ戻ろうと歩き出したが、不自然な木々の揺れる音に足を止めた。
『(なんだ?)』
怪訝そうに雪野が見つめていると…。
ーーーーどすん.
「ぐふっ」
『うわ!?先生!?』
木から地面へと斑が落下してきた。
「む?なんだ雪野か」
『何遊んでんの先生。木登りなんかして…猫のくせに落ちるとか』
「猫じゃないと言っとるだろうが!」
そう怒鳴る斑の手には、キラキラと光るガラスの欠片があった。
『なにそれ?』
「カラスの巣から拾った。これに欠片が隠れてるようだからな」
ごそごそと斑が取り出したのは、四分の三が完成された銅鏡。
『!!!?!』
「やれやれ、こんなものだろう」
驚きのあまり絶句してしまった雪野を尻目に斑はため息。そんな斑に詳しく聞こうとした雪野だったが、傷だらけの斑の背中を見て面食らう。
『(…先生、一人で頑張ってくれたんだ…)』
なんだか感動してしまう雪野は、意外そうに斑を見つめた。
「雪野、夏目はどこだ」
『こっち』
夏目達のもとへと斑を案内する。
『飲み物買ってきたよ』
「ありがとう鈴木」
芝生に座っていた夏目と田沼が雪野から飲み物を受け取り油断していた時だった。
「おいガキンちょ共」
「わあタヌキ!!」
「…と思ったらポン太か」
茂みから顔をのぞかせた斑に驚いていた二人は斑だと分かり拍子抜けする。
「!」
右目が、また痛み出した…が…。
「…んん。目が…痛い…けど…?」
「夏目?」
「…先生、何か持ってるな?」
「ああ」
ーーーーどんっ.
「見るがいい」
ドヤ顔で斑が二人へ見せたのは銅鏡。
「「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!?」」
ほぼ完成してしまっている銅鏡を見て思わず二人は悲鳴。
「私の実力をもってすれば、こんな欠片集めなど砂の中から砂を見つけるくらいかんたんなことなのだ」
やれやれとため息しつつ、なんてことない様子で言う斑に雪野はクスリと笑った。
「あ…」
夏目の右目から、さらりと何かが抜け出てきた。モヤのようなそれは銅鏡へと吸い込まれるように消え、欠けていた部分が埋まった。
「ーーーーさあ、これを持って去るがいい」
亀裂もなく、綺麗に元に戻った銅鏡を手に斑が言う。
「ーーーーああ」
ふわりと、田沼と妖の影が重なる。
「ありがとう」
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