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呼んではならぬ【前編】







『ニャンコ先生ー。もうご飯だから帰るよー』



裏通りにある空き地に雪野は斑を探しに来た。



「雪野か。ここだここ」

『貴志くん帰ってくるよー』



ため息してその場にしゃがみ込んだ雪野の耳に、ヒソヒソと囁く声。



「おい、これは何だ、変なものがある。何かの文字か?」

「これに似たのを河原でも見たぞ」

「何かの呪いか?早くここを離れた方がいいかもしれん」

「そうだな…」



足元を見ると、小さな人が。妖だと気づくが、雪野は妖達の会話が気になった。



『変なものって?』

「「ぎゃあ!人の子」」



声をかけられた妖達はぎょっと声をひきつらせる。



『何かあるの?』

「「ひいいいいーーーー」」

『あっ…』



一目散に逃げてしまった妖に少し雪野はショック。しかしすぐに妖達が来た方向を見た。



『(こっちに何かあるの?)』



好奇心に行ってみると、草のない土の地面が見えた。その地面には、円形の何かの陣が。



『(なにこれ…名取さんが描く陣みたいな…)』

「どうした雪野」

『ひっ…ニャンコ先生』



ぬ、と草の間から顔を突き出した斑に雪野は驚く。



「見ろ雪野。トンボを捕まえたぞ」



得意気に笑う斑の口に咥える紐先には二匹のトンボ。



『…食べる気?』

「阿呆、放して恩を売るのだ…む?何だこれは。見たことない陣だな…」



陣を眺めていた斑ははっと血の気を引かせた。



「まさか宇宙人と交信する系のサークルか!?」

『えっ。宇宙人は相手出来ないよ』



どきりと思わず雪野と斑は身構えてしまう。

ーーーーガリガリ…

背後から聞こえてきた、地面を削るような音。何の音かと雪野は振り向く。帽子とコートを着て、こちらに背を向け枝で地面に何かを描く女の子がいた。



『…なにしてるの?』



気になって雪野が声をかけると、少女は動きを止めると振り向いた。



「鈴木さん…?」

『ーーーーごめん。知り合いだっけ?』



怪訝そうに雪野が尋ねると、ハッと少女は口元を抑えた。



「しまった私…私今あなたの名前を呼んだ?」

『え?うん…』

「…そう…どうしよう…しまった…」

『…どうしたの?』



顔を覆い嘆くように呟く少女に雪野は戸惑ってしまう。



「ーーーー…ごめん。ごめんね鈴木さん」



深く息を吐いた少女。



「私、必ず勝つわ。必ず、勝たなくちゃ」

『えっ、まって…』



真っ直ぐに雪野を見つめて宣言した少女は、踵を返して走り去ってしまった。



『…なんなの、いったい?』



呆然と立ち尽くしていた雪野は、少女が何を描いていたのか土の地面に出た。見下ろすと、先ほど見つけた陣があった。



『…妖?』

「いやあれは人間の娘だな」

『ーーーーこれ、あの女の子が描いたんだよね…』



斑を抱え上げ、歩き出しながら雪野は、真剣な目で勝つと宣言した少女が気になった。




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