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「!」
はっと夏目は目を見開いた。
「ーーーー私の心をのぞいたね夏目」
同じものを見た雪野は、人魚を見つめる。
「ーーーーそうさ。私は彼女に失望して、意地悪してやろうと小ビンにはぶどうの汁を入れてやったのさ。そしたらあの子は泣きそうな顔で笑って「ありがとう」ってーーーー…私はその時、自分自身にも失望してしまったんだ」
笹舟の脳裏に、幼い千津の笑顔が思い浮かぶ。
「人間に関わるとろくなことがないーーーーでも…よかったんだね」
踵を返して雪野はベンチまで行くと、回復したらしい千津の手を引き夏目と笹舟のもとへ。
「ーーーー伝えてやってくれ夏目。意地悪してごめんって」
「ーーーー待て笹舟…自分で伝えろ」
千津に会わず、何も伝えず消えるつもりの笹舟に夏目は追い縋る。
「千津さんだってきっと…きっとーーーー…」
「夏目くん…?」
はっと、千津と笹舟は目が合い息を飲む。
「人魚さんーーーー…」
綻ぶ千津の笑顔が、幼い頃に見せてくれた笑顔と重なる。
「元気で」
たった一言。その一言に全てを込めて、笹舟は消えた。
「ーーーーきこえましたか?千津さん」
空を見上げる千津の横顔に夏目はそっと尋ねた。
「ーーーーええ。あの時と同じ、優しい声が…」
ーーーーぶどうの汁で、不死になれるはずもなく…気になった夏目達は数日駅にはりこんで、写真を見せてもらった蛍一そっくりの人をつかまえたのだ。
「ーーーーそう。お孫さんだったの」
「ええ。塾で時々あの駅に」
ベンチに千津と夏目は腰を並べて座る。
「お孫さん、千津さんにおじいさんのこと聞きたいそうです」
「え?」
「そろそろだ…あ、来た」
人の波の向こうに、夏目は手を挙げる雪野を見つけた。
「蛍一さんが亡くなったのは三年前だそうですーーーーとても、お幸せだったようですよ」
雪野の後ろを、誰かが一緒について歩く。その姿が近づくにつれ騒音は消えていき、そして、相手と目があった。
ーーーー千津ちゃん。
確かに聞こえた気がした。懐かしいあの笑顔とともに。けれどよく見れば、蛍一に似てはいるものの別人だ。目に涙を浮かべ、千津は笑った。
ーーーー側にいてほしい
側にいたいと
願ってそれが叶うことの貴重さを
皆
噛みしめて
きっと生きている
「しかし傷心の人魚から名を奪うなど、レイコはつくづく鬼畜だな」
「……笹舟、千津さんまた来るってさ」
「…」
池へと告げるも、水面は葉っぱがおりて揺れるだけ。
「いつでも助けてもらえると思うなよ」
水面に浮かぶ葉っぱにちょっかい出しながら斑は言う。
「人には出来ないことが多い。そのくせお前達はそれを忘れやすいんだ」
「ーーーーああ、そうだな」
非力さは痛感している
なのにそれをうっかり忘れ
たとえば
いつまでもこのままでと
叶わないことをつい願ってしまうんだ
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