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「おーい人魚ー」
やって来た池の淵に膝をつき、池に向かって声をかける。
「話があるんだ、出てきてくれー。おーい…」
しばらく声をかけ続けたが、池には影すら見当たらない。
「日が暮れるぞ」
空をちらりと見上げて斑が言う。
「…だめか…帰ろう」
そう落胆し呟いた時、夏目の頭にばしゃりと水がかけられた。
「…雪野…」
『ちがう私じゃない』
慌てて言った雪野にならば、と夏目は目を瞬かせて池を見た。輪を描く水面を見て、来てくれたかと夏目は微笑んだ。
「人間は嫌いかい?ここにはどれくらい独りで?ひとりはきついかい?」
世間話をするように声をかけると、再び水面が揺らいだ。
「ひとりでない時もあったのさ」
頭をちょこんと、人魚は水中から出した。
「何のようだ小僧」
「来た!話がある」
「夏目!?」
『貴志君!?』
「ぎゃあ放せ!」
すぐさま人魚に飛びかかり池へと飛び込む夏目に、雪野も斑も仰天する。
「答えてくれるまで放してやれないぞ」
「ーーーー馬鹿め。水中で私に勝てるものか」
水飛沫に片目を閉じながらも必死にしがみつく夏目を人魚は横目に見る。
「無力なくせに人間ごときが出しゃばるんじゃない」
「やれることもやらないで後悔するのは嫌なんだーーーー教えてくれ。女の子に血をやったことがあるのか」
千津のことを問うも、人魚は何も答えず表情すら変えないが夏目は諦めず続ける。
「彼女はそれを大切な人に飲ませたことで苦しんでいるんだ」
「…何?」
「不死をもどす方法か何かを知っているならーーーー…」
途端に人魚の目の色が変わった。
ーーーーがっ.
「!」
「どいつもこいつも不死だ血肉だと…」
水の中へと沈めるんじゃないか。そんな勢いで首を押さえ込んだ人魚の、怒りやうんざりで荒げた声に夏目ははっとする。
「……確かにあの子はよくここに来ていたよ」
人魚は口元に笑みを浮かべた。
「鮒の姿の私が人魚だと気付かず遊んでくれた。だから久しぶりに現れた彼女にこの姿を見せてやったら、血が欲しいと言うので特別にわけてやったのさ」
「…そうか他人に飲ませたのか」と、人魚は呟く。
「それを悔やんで痛めているのか。老い先短い心を。かわいそうに。ならばもう苦しまないよう私が食ってやろう」
「!!」
うっすらと笑った人魚は直後池から飛び出した。
「待て…」
素早い動きで人魚は池から消えた。
「チッ。逃げたか」
「くそ」
『貴志君どこへ!?』
「千津さんのところだ」
池から出た夏目はびしょ濡れのまますぐさま走り出した。もちろん雪野と斑もその後を追う。
『(ーーーー?友人帳が、熱い…?)』
背中のリュックから伝わる熱に、雪野は首を傾げた。
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