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「入って来たばっかでスゲー奴が一人いんだよ。ホラあそこ」



ダガーが指さすのは綱渡りのスペース。



「なんか元公務員だかで妙に真面目な奴でさぁ」



三人の顔に変化が。



「おーーい。ちょっと降りて来いよ!」



縄を渡っている男は眼鏡に七三にド派手なスーツ姿。



「スーツ!」



芸名もそのままだが、その男の正体をシエル達は知っていた。



「あ、あいつは…」



アンジェリーナの時にグレルを回収しに来た死神、ウィリアムだった。



「嫌な気配がすると思えば、やはり貴方ですか」



こちらに気づいたウィリアムはため息を吐き言った。



「まったく」



ーーーーシャキ――ン.



「「『!!』」」



伸ばされてきたデスサイズを避けてセバスチャンは二人の前に庇うように立つ。



「もう二度と会う事は無いと思っていましたが…まったく、今度は一体何を喰い漁りに来たんです?」



降りてきたウィリアムはセバスチャンにデスサイズを突き付けた。



「悪魔風情が!」



その言葉に周りがざわつき始めた。



「悪…魔?」

「『(まずい!セバスチャンの正体が!!)』」

「ただでさえ死神不足のこの御時世に」

「お…おい、一体なんの話を…」

「悪魔にこうも現れられては、今日も定時に上がれないじゃないですか」



シエルが誤魔化そうとするが無視してウィリアムが話していくから意味がない。



「死…神…お前…っ」

「い、いやこれはっ」

「いーかげんにしろこのデコ助!!お前真顔で言うからギャグってわっかんねーよ!!」



笑い出した周りにシエルもダリアもホッとした。



「こいつ来た初日からジョークがハジケててさぁ」



笑いながらダガーが説明する。



「魂がどーのとか言ってて、筋金入りのオカルトオタクなんだよ」

「冗談では無いんですがね」



確かに。



「紹介すんよ。今日入った新人で、こっちの可愛い子がスマイル、ちっこいのがリトル、でかいのがブラック。まあホープ同士仲良くやれよ!」

「害獣と仲良くなぞ、まっぴらごめんです」

「あ!まっぴらってサーカスはチームワークだぞ!!」



プイ、とウィリアムはさっさと背を向け去っていった。



「何故こんな所に死神が…?」

「死神自ら潜入するとは珍しい…これで一つハッキリしましたね」



コク、とダリアが頷く。

やはりこのサーカスには何かある!



「あいつを探ってみる価値はありそうだな。セバスチャン」

「こーら何してんだスマイル!リトル!」



ダガーはシエルとダリアの首に腕をかける。



「ブラックに負けねーよーに練習練習!!」

『!!』

「はっ、はい…」

「ナイフ投げとジャグリングの極意を教えてやるぜッ!!」



と、ずりずりと引きずられていく二人にセバスチャンは頷いた。



「御意」



セバスチャンは再び綱渡りをするため縄梯子に足をかけているウィリアムに近づいた。



「すみません。少々教えて頂きたい事があるのですが、先輩」

「私は貴方に話す事は何も無い」

「そう仰らず」



去ろうとしたウィリアムの腕をつかみ止める。



「…少し外へ」



ミキミキ、と骨が鳴る音がするほどの力が加えられるという険悪な空気。



「なんだアイツら、早速仲良くなってんじゃん」



どこがだ、と二人はセバスチャン達の様子を見ていた。













「サービス残業は許せない。邪魔するなら狩りますよ」

「私も好き好んで死神に関わりたい訳ではありませんから。安物の魂には、興味がありませんしね」

「おい!」



険悪殺気丸出しに話し合っていたセバスチャンとウィリアムのもとに、シエルとダリアが現れた。



『あの煩いナイフ投げが呼んでるわよ』



二人を理解不能という顔でウィリアムは見る。



「そんな高級品には見えませんが…まったく悪魔というのは…「お前」



つかつかと二人はウィリアムに近づくとギロ、と睨み上げた。



「ここでその呼び方はよせ。サーカスの連中に不振がられたら、どうしてくれる」

『さっきは冗談で済んだからいいようなものの…人間の中に溶けこめないなんて、あの下品な死神以下ね』



はッ、と嘲笑しながらダリアが言えばカチン、ときていたウィリアム。やはり下品な死神以下は嫌だろう。ダリアの言葉にセバスチャンものる。



「全くです。私共も貴方の仕事をお邪魔しませんので、こちらの仕事も邪魔しないで頂きましょうか」

「ありがたい。こちらとしては、貴方がたなど視界に入れたくもないので」

「丁度いい。では、今後一切お互いに干渉しないということで、決まりだな」



互いの間に凄まじいほどの殺気がぶつかり合う。



「では、スマイルにリトル」



うっ、と二人は微妙な顔。



「飼い犬の手綱をしっかり握っているよう頼みます」

『誰に言ってるのかしら?』

「満足に潜入もできないメガネに言われたくないな」

「メガネではありません。スーツです」

『スーツ、ね』

「フン。行くぞセバスチャン」

「は」













「さーーそれではお待ちかね〜。新人の部屋割り発表どすえ〜」

「はい…」

『…』



座り込んでいるシエルとダリアは疲れ切っていた。



「なんや、スマイルもリトルも元気ないで〜。スマイルスマイル!」

「は…ハイ…」

「『(思った以上に訓練がキツい…!!)』」

「厳正なるアミダクジの結果、スマイルは8番テント。ルームメイトはこいつ」



紹介されたのは赤髪にそばかすのある、左側を前髪で隠した男だった。



「リトルは声が聞けへんし、初めだから今回はスマイルと一緒に8番テントどす」



にこ、とルームメイトは笑いかけてきたので会釈する。



『(いきなり他人と同室か…)』

「(やりづらいな)」

「で、ブラックは9番テント」

「『!!?』」

「セバ…ブラックと僕らは同室じゃないんですか!?」

「うん?そーやけど?」

「あははは。スマイルはホント、ブラックにベッタリだな〜」

「そ、そういう意味じゃなく」

「そろそろ自立しろよ」

『(どうするのシエル!ここでセバスチャンと引き離されると身動きが…)』

「やっぱり僕はブラックと一緒がい「ほんでブラックのルームメイトはスーツな!」



次の瞬間、セバスチャンとウィリアムの空気が凍りつき、ショックに割れた。



「んなッ!!??」

「ブラックとスマイルとリトルは元から仲良しだし、新しい友達ふやすチャンスじゃん♪」



その間にもセバスチャンとウィリアムはどす黒いオーラを出しながら睨み合っている。



「じゃーウチらは退散しよか」

「ちょ、あのっ」

「じゃーおやすみなー」



で、残された4人。



「最悪です」

「同じ言葉をお返ししますよ」

「これからよろしくなスマイル!リトル!」

『……』

「……はぁ…」



前途多難な潜入捜査となった。





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