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その執事、壇上



『…それにしても、ランドル卿が不在で好都合だったわね』

「もう勘弁してくださいよ!」



シエル、ダリア、セバスチャンの三人はヤードの資料室に来ていた。



「こんなことが総監に知れたら…」

「知られなければいい話だ「大体っ」



我慢ならず言葉を遮り、最も気になっていた事をアバーラインは問いかけた。



「一体どうやって3階へ入ったんです!?」



そこはスルー。



「どうだ?セバスチャン」

「捜索願いが出されている子供達の中から、死体は上がっていないようです」

「写し終えたら行くぞ」

『写真はどうする?』

「拝借しておくか」

「困ります!!」

『安心なさいな』

「バレたら僕らが持って行ったと伝えておけ」

「余計怒られます!!」



確かに。



「君…えーと、アンダーライン君?」

『違うわよシエル。アンダーレインさんよ』

「アバーラインです」



どっちも違ったが、二人はそうだったかとあまり気にしちゃいなかった。



「今日は助かった」



資料に目をやりながらシエルは手でセバスチャンに合図を送る。



「ご協力感謝する」

「…?」



セバスチャンが握らせてきたものを見て、目を見開いたアバーラインはすぐさま突き返した。



「こんなものいりません!!」



それは四枚の金貨だった。



「自分は、どんな方法であれ一刻も早い事件解決になればと思っただけで、こんな…!!」

「どんな方法であれ…か」

『柔軟さに将来性があるわね』



去り際にシエルは背を向けたまま手を振った。



「早く出世したまえ、アバーライン君」













「まだ全員が行方不明という扱いの様ですね」

「表の世界ではそうかもしれんが」

『裏の世界ではすでに…という可能性もある』



馬車に乗ったシエルは杖の頭で天井をたたき、馬車を出発させた。



『シエル』



差し出してきたダリアの手から手紙を受け取り、シエルは早速読み始めた。






ーーーー可愛いぼうや、スモールレディへ

今年のクリスマスは楽しく過ごせましたか?
私はフィリップとクリスマスプディングを作りました。
とても上出来で、ジョンとグレイも大絶賛でしたよ。
今度ぼうやとスモールレディも、食べにいらしてね。

さて、今回同封したチケットですが、今度ロンドンに移動サーカスが来るのを知っていますか?
各地を回る旅一座だそうですが、どうやら彼らが立ち寄った街で、何人もの子供が姿を消すという事件が起こっているそうです。
警察も全力を上げ捜索していますが、子供達の行方は依然として知れません。
子供達は真夜中に忽然と姿を消すそうです。

…まるでハーメルンの笛吹に連れ去られたかのように…。

大切な家族を失う悲しみは耐え難いもの。
一刻も早く子供達が無事家族の元へ、戻ってくれるよう願います。

ヴィクトリアーーーー。






読み終えた手紙を封筒へと戻す。



「坊ちゃん、裏をあたるという事は、今回も彼の所へ?」

「本当なら避けたいが…」

「『………』」



ため息を吐くと無言に。



ーーーー「なんだシエル、ダリア。もう俺に会いたくなったのか!?この寂しん坊どもめ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

思い起こされた1時間前のタウンハウス。

ーーーーイラッ.



「一刻も早く本邸に戻りたい」

『遠回りしてるヒマはないわ』

「行くぞ」

「はぁ…」



それから三人が向かった先は葬儀屋の店だった。



「ーーーーいるか?葬儀屋」

「……ヒッヒ…よぅ〜〜〜〜こそ伯爵姉弟…」



するといきなり横をゴロゴロゴロと骸骨が転がっていった。

ーーーーパカーン!



「ダリア嬢、やっと小生特製の棺に入ってくれる気になったのか〜〜〜〜い?」

「お前…」

『んなわけないでしょ…』



骸骨と仏壇に飾る墓石でボーリングをしていた葬儀屋に二人はドン引き。



「ヒッヒッ…まぁ、お座りよ。丁度クッキーが焼けたところさ」













「ーーーー子供の死体ねぇ…」

「表の世界では行方不明扱いで、遺体等は発見されていないそうです」

「裏の世界じゃ子供の死体なんか、日常茶飯事だからねぇ…」



パキッとクッキーを食べながら葬儀屋は言う。



「伯爵もダリア嬢もよ〜〜〜〜く知ってるだろ?」

「『……』」

「資料は持って来た。その中にお前が片付けた子供はいるか?」



セバスチャンに渡された資料を見ていく葬儀屋。



「ど〜だったかな〜いたかなぁ〜〜〜〜。なんだか面白いモノを見れば、思い出す気がするなぁ〜〜〜〜」



チラ、とシエル達を見る。



「わかってるだろ伯爵…ダリア嬢…小生にアレをおくれよ…」



うっ…と二人は顔色悪く引く。



「極上の笑いをさァ〜〜〜〜。そ〜〜〜〜したら、なんでも教えてあげるヨ〜〜〜〜」



ヒッヒッウヒヒ、と不気味に笑う葬儀屋にドン引きしながら二人は仕方ないかと呼ぶ。



「『…セバスチャン』」

「……」



息を吐いてセバスチャンは手袋をはめなおす。



「では」

「あれェ?今回も彼に頼っちゃうのかい〜?」



「ぐふふっ」と笑いながら葬儀屋は机に突っ伏し二人を見る。



「二人は執事君がいないと何も出来ない子なのかなぁ〜?ま、小生は面白ければ誰でもいいけどね」

「『!!』」





ーーーー「お前らは俺がいないとダメなんだな!!しょうがない奴らだな〜!俺のこと、兄者って呼んでもいいんだぞ」

ーーーーイラッ…!



「『僕/私がやる』」



街屋敷でのソーマの言葉が思い起こされ、二人はイライライライラとしながら言った。



「やるんですか?」

『二度も言わせるな』

「お前は出て行け」



二人は同時に振り向くと、セバスチャンを睨み低い声で指差しながら言った。



「絶っっっっっっ対中を覗くな」

『命令よ!』

「…御意、ご主人様」



と、いうわけで外に待機するセバスチャン。そのうち昼時になり、そのうち夕焼けに空が染まり、そのうち空に月が現れた頃だった。



「…プッ」



微かな笑い声が聞こえてきた。

ーーーーギィ…

扉が開けられそっと中へと入る。



「ふぐっ…いやぁ…あのファントムハイヴ姉弟が、あそこまでするなんてね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ブフォッ…」



二人は上着も脱ぎボロボロに疲れ切っていた。



「一体何をしたんです?」

「聞くな」

『大したことはしてないわよ』



乱れた二人の髪を整えながら問いかけていたセバスチャンは、目を細め笑った。



「しかし、女王の為なら芸もこなしてみせるとは本当に犬ですね「『五月蝿い黙れ』」



睨んできた二人に息を吐きセバスチャンは黙って上着を着せていく。



「さあ報酬は払ったぞ。子供達について教えろ」

「いないよ」

「「『は?』」」



さらりと言った葬儀屋に、三人は目を丸くし固まった。



「小生のお客さんにこの子供達はいないし、裏社会での噂も聞かないねぇ」

『つまりこの事件については何も知らない?「そんなことないさ。知らない≠ニいうことを知ってるよ」



戸惑っていた二人は眉根を寄せ葬儀屋を見る。



「騙したのか?」

「騙してないさ。立派な情報だろう?」

「確かに。貴方が知らないという事は、子供達が裏社会で殺された事実がないという事」

『表でも裏でも死体が上がっていないとなれば、子供達は生きてる確率が高いわね』

「となれば…例のサーカス団を直接調べるしか、道はないということか」



二人は早速動き出した。



「そうと決まれば行くぞセバスチャン。葬儀屋、何か情報が入ったら連絡をくれ」

「伯爵、ダリア嬢」



ん?と二人は振り向く。



「魂は一人ひとつ。大事におしよ」

「『?』」

「そんなことわかってる」

『ごきげんよう』



不思議そうにしながら二人は店を後にした。



「ほ〜んとかなぁ〜〜〜〜ヒッヒッ」




_55/212
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