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その執事、賛同





「『葬儀屋!!』」



謎に包まれていた校長の正体は、死神でもある葬儀屋だった。



「やあ〜伯爵姉弟。相変わらず小さいねェ。元気そうで何より。初めての集団生活は楽しかったかい?ヒッヒッ」



脱いだシルクハットをくるくると手で回しながら、葬儀屋は以前と変わり様子なく挨拶をする。



「店仕舞いしてどこに消えたかと思えば…まさか学校に就職なさっていたとは」

「ヒッヒッ。臨時講師だけどねェ〜」



セバスチャンに答えながら、葬儀屋はシルクハットをかぶり直す。



「やれやれ…家出調査がとんでもない事になりましたね」



再会が嬉しいわけもなく、警戒するセバスチャンはシエルとダリアを背後に庇いつつ、監督生達へと顔を向けた。



「あなたがた4人はデリック様を殺害し、そして、暁学会に蘇生を依頼した…そんな事までして、何を守りたかったというのです?」

「……アイツは」



誰もが言い難そうに閉口していた中、ブルーアーがゆっくりと重たそうに口火を切った。



「デリック・アーデンはこの学園にあってはならない者だった」



そのデリックは、拘束されたまま呻くような言葉を繰り返している。



「どういう意味だ?」

「それはーーーー」



問うたシエルに対し、ブルーアーの説明はこうだ。

一年程前まで遡る。レドモンド、ブルーアー、グリーンヒル、バイオレットの四人が、監督生になったばかりの頃だ。その頃のレドモンドの寮弟はデリック。侯爵家の血統、快活な性格、溢れる才能。光り輝くデリック・アーデンに潜む濃い影に、四人は気づけなかった。

それが発覚したのは、目安箱に届いた一通の詩がきっかけ。それにより、四人はある夜、目撃したのだ。

デリックとその仲間が、生徒を痛めつけている現場を。

しかもデリックは副校長であるアガレスと癒着していた。表向きには「優秀なデリック」として、来年には恐らく監督生となるデリックにも、お酒と引き換えにイジメを見逃すアガレスにも、許せなかった。



そうして、事件は起きた。



背を向けるデリックの後頭部目掛け、力いっぱいバットを振り下ろしたグリーンヒル。飛び散る赤が、滲む視界に見えた。周りは恐怖に逃げ出そうとするも、バイオレットが扉の前に立ちそれを許さなかった。呆然と目を見開き凝視していたレドモンドとブルーアーも、やるべきことはわかった。アガレスに二人掛かりで掴みかかり、動きを封じる。血の気を引かせたアガレスが最後に見たのは、バットを振り上げたグリーンヒルだった。

ーーーーこいつらがいる限り、学園の伝統は蝕まれ続ける。

ーーーーそんなことがあってはならない。

ーーーーなぜなら。

ーーーー伝統は絶対!!



「監督生は君だけじゃない」

「ああ。監督生は学園を守らねばならない」

「そのための罪なら誇りを持って共に背負おう」

「……お前ら…」





ーーーー全ては、伝統あるウェストン校のために。





「ご親族の方々には申し訳ないことをした。だが伝統と規律を守るためにはこれしかなかったんだ」



シエルもダリアも驚きを隠せないし、エドワードを始め寮弟達は血の気を引かせていた。



「事を荒だてて学園の名に傷を付けたくない」



そんな中、ブルーアーは当たり前のようにキッと凛々しく顔を決めて言った。



「わかってくれるな?ファントムハイヴ」

「人を殺しておいて、何を言ってるんだ?」



心底理解不明。シエルがそれを顔にありありと表して即答すると、なんとも言えない空気が流れる中、庭を風が吹き抜けた。



「ーーーープッ」



風がやんだ頃、沈黙を破ったのは葬儀屋。



「ギャーーーーハハハ。サイッコーーだよォ〜〜〜。アッハハハハハハハ。小生は働き以上に笑い(ギャラ )を頂いたよォ〜ブフォッ、ヒィッヒィイイ〜ーーーッ」



お腹を両腕で抱えて大爆笑の葬儀屋。涙がちょちょぎれる有様で、ガッタンガッタンと椅子ごと苦しそうに笑い転げる。



「ハァ〜〜〜〜。ほんっと人間ってのは…」



ガタンッ、と石畳に椅子の脚を着地させ、葬儀屋は動きを止めた。



「最っ高に悲劇的で…最っ高に滑稽で…最っ高に面白い!」

「おや、珍しい」



項垂れて垂れ下がる髪の奥で、口角を吊り上げ愉快そうに笑みを浮かべた葬儀屋の言葉に反応したのはセバスチャン。フッ…と同じように愉快そうな笑みを、品の良さげに浮かべ一言。



「そこだけは気が合いますね」





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