「本日のアフタヌーンティーは、カングラバレーのグリーンティーとルーズベリーとエルダンフラワーのゼリーをご用意致しました」
スプーンですくって一口食べる。
「まあまあだな」
「ご満足頂けましたか」
『及第点ね』
「では、食後にお仕事を」
なに?と見上げた二人の前に、セバスチャンは手紙を差し出した。
「人体発火事件、ですか」
紅茶を注ぎながらセバスチャンが今聞いた話題を呟く。
「ロンドンで頻発しているあの事件ですね?昨夜も犠牲者が出たとか」
「ああ。市民が恐怖に震える夜を過ごしていることを、女王陛下は嘆いておられる」
『…?』
「如何なさいました?」
訝しそうに手紙を見つめたダリアにセバスチャンが声をかけると、ダリアはセバスチャンに手紙を差し出した。受け取りセバスチャンも手紙に目を通す。
「……忌まわしき事件の再来に、此度もまた、犬と蜘蛛に最良を託すと言う」
「どういう事でしょう」とセバスチャンは二人を見る。
『過去に同じように事件があったと言うこと?』
「それに、この蜘蛛とは」
「わからない。いや、僕は知らないと言うべきだな」
『左に同じね』
そう言って紅茶を飲む二人をじっと見ていたセバスチャン。
「考えても仕方ない。女王の憂いを晴らす、それが最優先事項だ」
『ロンドンに発つわよ』
「かしこまりました」
「それから、マダム・レッドには僕達の動きを悟られないようにしろ。あの人が好きそうな事件だ」
『何言ってるのよシエル。マダム・レッドは…』
マダム・レッドは…と口ごもったダリアを、シエルは不思議そうに見る。
「マダム・レッドがどうかしたか?」
『…何でもない。なんか、引っかかりを覚えただけよ…そうね、首を突っ込まれても困るし』
そんな会話をしながら部屋を去る二人に、セバスチャンはクスと笑った。
「そちらは問題ないかと」
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