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午後、再びボートに乗り白い鹿探しを。



「なかなか見つからないわねー。つまんないの」

「帰るか?」

「ううんっ、まだまだ!」

「そうか」

「ダリア姉様!一緒に探しましょうよ」

『えー…』



シエルの隣に座ってボーっとしていたダリアの手を引いて、エリザベスは先端で張り切って探し始める。あまり乗り気じゃなくとも、とりあえずダリアもエリザベスに倣い探し出す。それを眺めていたシエルは息を吐いて、ダリアがいなくなったことで出来たスペースに寝転がり空を見上げる。



「(穏やかだ…だが、何故だろう。胸がざわつく)」

『…シエル?』

「どうしたの?」

「何でもない」

「シエル…」



心配そうに見ていたエリザベスは、決意の表情でまた前を見た。



「(きっと、見つけるわ)」



それから時間が経って。



『え?』



ポツ、と日傘に何かが落ちてきたかと思うと、ポツポツと雨が降ってきた。



『やだ…降ってきたわね』

「岸に戻りましょうか」

「これじゃあ鹿探しはまたの機会に「ダメよ!」



え?と全員がエリザベスを見る。



「セバスチャン、岸に戻って。歩いて探すわ」

「御意」



戸惑いながらもセバスチャンはとりあえず岸に戻ったが、エリザベスは三人の制止も聞かず歩き出す。



「エリザベス。待てと言っている」



先を行くエリザベスにシエルが駆け寄る。



「さっき見えたの。森の奥に」

「この雨じゃあ鹿だって隠れてる」



エリザベスの肩を掴んで振り向かせる。



「今日は帰ろう」

「いや!白い鹿を見つけるの」



セバスチャンと数歩後ろで様子見のダリアは頑なな態度のエリザベスに訝しげに首を傾げる。



「聞き分けのない事を言うな」



そう言ってシエルは笑う。



「またいつでも探せばいい」

「え!」

「人を雇って、賞金を出せばいい」



嬉しそうに笑っていたエリザベスだったが、その言葉を聞いてまた悲しそうな顔をすると俯いた。



「だから…」

「シエル…シエルの…シエルのバカ!!」



バシッ、と手を振り払ったエリザベスにシエルは目を丸くさせる。



「エリザベス…?」

「そんなのじゃ意味がないのに…私の気持ち全然わかってないっ。もういい!」

「エリザベス!」



エリザベスはシエルの声を無視して走り去ってしまった。

ーーーーコンッ.



「ダリア?」

『今のはシエルが悪い』



閉じた日傘で軽く頭を叩かれ振り向けばダリアにそう言われ、シエルは目を瞬かせる。



『全く…あそこまで一生懸命だった子が、他人に見つけてもらって喜ぶと思う?』

「ご令嬢の言うとおりだよ伯爵」



ん?と二人は声の方に顔を向ける。



「怒らせちゃって。これで決着かな」

「『劉』」



藍猫を連れた劉は、なぜここにいるのかと目を丸くさせる二人に挨拶をするように手を振る。



「我は見つかる方に賭けたんだから、失望させないでほしいんだけどね」

「お前の都合など知るか」

『ていうか、なんで貴方がいるのよ』

「そこはまあ、いいじゃないか」



そう言った劉をセバスチャンはじっと見ていた。



「レディを喜ばせるのが紳士の務め、か。ほーんと面倒くさいよね、英国貴族って」

「生まれつきだ。どうとも思った事はない」

「ほーう」

「…けれど、僕は」



シエルは親指にはまる指輪を撫でる。



「汚れし仮面を負って生まれた僕にとって、その務めは…」



数秒の重たい沈黙の後、「さぁ〜て!」と劉が場違いな声を。



「集金も済んだし、撤収撤収」



あ、と我に返りシエルもセバスチャンを見る。



「エリザベスを迎えに行くぞ、セバスチャン」

「セバスチャンさーん!」



フィニが大急ぎでこちらに走ってきた。



「どうしました?」

「大変なんです!エリザベス様が!」

「『!』」



はっ、と二人はエリザベスが走っていった方向を見た。













「『エリザベス!』」



フィニの案内で向かえば、エリザベスは桟橋にくくり付けられたボートにしがみついていた。豪雨に荒れ狂う川波で身動きは取れない。



「シエル?ダリア姉様?」



二人の姿を見つけると、エリザベスはオールを支えにボートの上に立ち上がった。



「いたの…川の、向こうに…きゃっ!」

『危ない!ボートから手を離さないで!』



よろけて倒れたエリザベスは、二人を見つめながら続ける。



「白い鹿を…見つけるの」



「白い鹿を」となおも立ち上がろうとするエリザベス。



「エリザベス…何故…」

『どうして…そこまでするの?』

「っ…シエルも、ダリア姉様も、絶対幸せになるの」



船を岸に繋ぐロープに手を伸ばすエリザベスの言葉に、二人はハッとする。



「どうしますか?坊ちゃん、お嬢様」

「あのままでは危ないねえ」



そう言った劉を見る。



「ほら、あれ」



劉が指差した先では、水門が水圧に今にも決壊しそうだった。



「旧式の水門です。来月、改築工事に入る予定だったのですが」

「もう溢れてる。決壊したら、今留めている水が逆流して、ここ一帯が大変な事になるだろうね」

「『…』」



じっとエリザベスを見ていた二人は、顔を俯けた。





_203/212
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