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「お決まりですかお嬢様」

「うーん。ボートだからシンプルな方がいいんだけど…あっちのレースもかわいーし、あのフリルもすごくいい」



エリザベスが言う度に、メイリンがその服を手に取り見せていくが、なかなか決まらない。



「あーもうっ。両方いっぺんに着られたらいいのにーーーー!」

『そんな事出来るわけないでしょう』



呆れながら言って出てきたダリアの着替えたドレスを見るや、エリザベスはムッと顔をしかめて詰め寄った。



「ダリア姉様!どーしてそんな地味なの着てるの!」

『別にいいでしょう。ボートに乗るだけなんだし』

「いいえ!地味な中にも可愛らしさをいれなきゃ!こっちにして」

『いいわよこれ「さ!いったいった」

『ちょっ、エリザベス!?』













「?」

「どうした」



着替えをしていたシエルだったが、セバスチャンの手が止まった事に不思議そうに訪ねる。



「今、お嬢様の悲鳴が聞こえた気がしまして」

「大方エリザベスの着せ替え人形にでもなってるんだろ」



大当たり。セバスチャンもその通りだろうと中断していた手の動きを再開させた。



「すぐに帰る予定だったのでは?」

「気が変わった」



見上げてきたセバスチャンをシエルは見返す。



「これは僕の義務だからな。川の管理も、退屈な社交も、婚約者を喜ばせる事も、ファントムハイヴの領主という立場が伴う、僕の義務だ」



「それに」とシエルは続ける。



「侮られたままでいるのは気分が悪い。ダリアの機嫌が、悪いままなのも困るしな」

「ボートを見て参ります」













階段からまず、シエルにエスコートされてエリザベスが下りてきて、それを眺めている人々から拍手が起こる。ボートに乗る際、シエルが先に乗ってボートを押さえつけエリザベスが乗りやすいように手を貸す。



「わあ、素敵!」

「うんっ」



次にセバスチャンにエスコートされてダリアが現れた。同じように拍手が鳴る中を歩いていくのだが、エリザベスとの問答にダリアは疲れ切っていた。



「お嬢様、その情けない姿をどうにかしてください」



耳打ちしてきたセバスチャンをちらりと睨むと、ダリアはため息をして胸を張って堂々と歩き出した。あと数歩でボートというところで、ダリアは橋の出っ張りにつっかえた。



『!?』



げぇっ、と身構えていたダリアだが、衝撃は起きず代わりにふわりとした浮遊感を感じた。驚きながらダリアが目を開けると、目の前にセバスチャンの顔。目を瞬かせているダリアへとセバスチャンは笑いかけ、そのままボートに##NAME1##を下ろした。



「あれも素敵ねぇ!」

「うんっ」



じっと見ていたエリザベスはシエルを見る。



「シエル、私もあれやりたいっ」

「わざと転ける気か?」

『…』



とんだ恥を晒した、とダリアは顔を両手で覆って俯いていた。その間も辺りからは拍手が。



「おいセバスチャン、何なんだあいつら。見せ物じゃねーぞ」

「ああ。坊ちゃんとお嬢様の粗探しをしているのでしょう」



ボートから離れて資料の確認をしながらセバスチャンはバルドに言う。



「この社交界には敵も多いですから」

「敵?」

「ですだか?」



どういう意味かとフィニとメイリンは首を傾げた。



「お嬢様は婚約者がおりませんから、隙を見て狙っている方は大勢いらっしゃいます。坊ちゃんの方は、エリザベス様がいらっしゃいますが、破談になったら得をする方もいらっしゃいますしね」

「「「は、破談!?」」」



ショックを受けたように詰め寄ってきた使用人達を鬱陶しそうに見ながらセバスチャンは言う。



「皆さん、妙な事は考えず、くれぐれも大人しくお願いしますよ」

「「「は、はい!」」」



敬礼をした三人に疑惑の目を向けながらも、そろそろ出発しなくてはならずセバスチャンはボートに乗った。それを見送って三人は額を寄せ合った。



「破談なんてダメですだよ!坊ちゃんにはエリザベス様でないと」

「僕達で坊ちゃんを助けなきゃ」

「ああ、お前らやるぞ。俺らの仕事はわかってるな」

「「うん」」

「「「えい、えい、おーっ」」」



…大人しく、しているわけなかったのだった。





_201/212
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