「昼を夜に、砂糖を塩に、生者を骸に、そして、濃紺を金色に染め上げる」
「これぞトランシー家の執事」
燕尾服に身を包みメガネをかけたクロードはん?と声の主、アロイスを見た。
「だっけ?」
大々的に(それはもう本当に)食堂の模様替えを一瞬で終わらせたクロードに花瓶から紫のバラを一輪手に取りながらアロイスは笑った。
「さすがはクロード。クロードがいれば、他の使えない奴らはいらないね」
無邪気に笑うその姿は、華奢な身体も合わさってまるで少女のように愛らしさがある。が、彼はれっきとした男だ。
「でも、薔薇はこっちに飾った方が俺の好みだ」
言いながらアロイスはクロードにバラをくわえさせると、その場でフラメンコを踊り出した。
「オ・レ!」
見事なステップを披露したアロイスを見つめるクロードは無表情。構わず踊り続けていたアロイスは、何の余興もなく笑顔を引っ込めるや吐き捨てた。
「クソにまみれろッ」
彼は、トランシー家当主、アロイス・トランシー。
それに仕えるは、執事・クロード。
…物語の幕が開けたのだった。
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