『ちょっ…アハハッ、も、無理…ぷくく…っ』
「くっくっくっ…お嬢様以外でこんな…くくっ…流石の坊ちゃんもレディの前では形無しですか」
「うるさい黙れ!!笑うな!!」
「?」
エリザベスは一人首を傾げていた。ひとしきり笑ったダリアは悪戯っぽく笑って謝った。
『ごめんなさいね』
「たく…」
「では、参りましょうか」
シエルを抱えるセバスチャンはツボったのかまだ笑っている。
「貴様はいつまで笑って…」
「スマイル!リトル!」
「『スネーク』」
現れたスネークはシエル達を見てホッとする。
「皆、無事でよかったわ。ってエミリーが言ってる」
「リアンは?」
「悪ィ、逃げられちまった。ってオスカーが言ってる」
『そう…』
「とにかく一度侯爵家の皆様と合流しましょう」
「ああ」
【カンパニア号・一等旅客用デッキ】
「下がれ!!女性と子供が先だ!」
非難ボートに乗り込む人々。そんな中所々にいる我先な者達にエドワードの怒声が響いていた。
「貴様らそれでも英国紳士か!?」
「お兄様!!」
は、とエドワードは振り向く。
「リジー!!」
笑顔で駆け寄ってきたエリザベスをエドワードも安心した笑顔で抱きしめた。
「無事でよかった!!」
そしてエドワードはダリアを見てホッとする。
「ダリアも、怪我がないようで安心した」
『ええ…エリザベスが、守ってくれたから』
エドワードはエリザベスの手にある剣を見て、瞳を伏せた。
「…辛かったな…」
「すまない、僕がふがいないばかりに」
「まったくだ!」
シエルにきっぱりとエドワードは言うと「まあいい」と踵を返す。
「説教は後だ。三人共早くボートに…」
「エドワード、頼みがある」
エドワードの言葉を遮りシエルはスネークを示す。
「僕らの代わりに、こいつを乗せてくれ」
「「!?」」
シエルの言葉にスネークとエリザベスは驚愕する。
『私とシエルは、まだ、ボートに乗れないわ』
「……」
「わかった、預かろう」
エリザベスは前に出る。
「シエル達が残るならあたしもっ…」
ーーーートッ.
「!?」
「失礼」
「執事!!」
いきなり気を失ったエリザベスを支えたのはセバスチャン。エリザベスにセバスチャンが首に手刀をいれたのだ。
「エリザベス様に納得して頂くにはお時間が掛かりそうでしたので、少々手荒な方法をとらせて頂きました」
頭を下げながらセバスチャンはエドワードにエリザベスを預ける。
「後でどのような処罰でも」
「いや…ありがたい。俺じゃ妹の後ろは取れん」
それだけ、エリザベスは強かったという事だ。
「大分船が傾いてきている…沈没は時間の問題です。急いで脱出し、出来るだけ船から離れて下さい」
「ああ…ダリア、絶対に戻って来いよ」
エドワードにダリアは目を丸くするとすぐに笑い返した。
『ええ』
「リジーとスネークを頼みます!」
『行くわよセバスチャン』
「御意」
去っていく背中を見ていたエドワードは口を開いた。
「お前は戻って来なくていいぞ!!」
え、と顔を向ける。
「可愛い妹を嫁にやらなくて済む!」
そう言ったエドワードにシエルはきっぱりと言った。
「必ず戻ります」
next.
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