23

その頃、桶狭間では今川義元の首を賭けて蒼と赤が激しく刃を交えていた。息切れ切れに向かい合う双方は熱く胸を滾らせている。

「・・・最高のpartyだぜ」
「御館様ッ、この幸村、戦場で…これ程熱く滾った事は御座りませぬっ」

何度もぶつかり合った刃は高い音を立てて弾き合う。しかし誇り高き戦いのその影で、不穏な動きをしている者達がいた。

「影武者を・・・!」

空高いところでそれを見下ろした依は幸村へ伝えようと風を切るが、それも間に合わずに今川義元の影武者達は散り散りに別れた。その籠を追う政宗・小十郎・幸村を追おうとするも、

「依様、これ以上は」
「・・・分かりました」

才蔵に腕を掴まれる。
この一回がギリギリ、彼の許容範囲。これ以上は許可出来ないと首を振られて、依は大人しくその場に残った。背後には、残ったままの伊達と今川の兵卒達が。

「あちらは佐助に任せましょう・・・そしてこちらは、遠慮は要らないと言うのが彼らの筆頭のお達しですから・・・向かってくるのであれば、謹んでお相手致します」

主の元へ向かったであろう、頼れる真田十勇士の長を見やるように振り返って、背中を護る才蔵と共に彼女も刀を抜いて駆けた。





「(主、)」
「小太郎!」

御館様の元に置いてきたはずの小太郎が依の元へ駆け付ける。素早い太刀筋を繰り出しながら今川の、それから伊達の兵達を片付けながら、彼は依のすぐ傍を護るようについた。

「(信玄公もじきに此方へ)」
「そう・・・小太郎、怪我はありませんか?」
「(はい、特には)」

コクコクと首を縦に振る彼の身体中にある擦り傷をちらりと見て、依はニッコリと微笑んだ。

「そうですか。では、帰ったら私に手当てされてくださいね」
「(主っ…)」
「小さな傷も甘く見てはいけません。才蔵もね」
「なっ?!」
「私に集中し過ぎて自分の事を疎かにしすぎです。貴方、さっき背中を打たれていたでしょう」

急に飛び火して才蔵も声を漏らす。依に図星を差されて、彼も気まずそうな顔をした。忍の矜持も、彼女の前では役に立たない。

「小太郎も才蔵も、もう一息です。向かってくる者達が居なくなればおしまいですよ」
「「承知(承知)」」

先程から、全て峰打ちで相手を打ちのめしている依。才蔵や小太郎も、彼女の意思を言わずとも汲んで、殺さない程度の傷で収めている。それが伊達軍には癪に障るらしい。

「何処ぞの姫さんか知らねぇが、こんなんで俺達が引き下がると思ったら、大間違いだぜッ!!」
「…ええ、向かってくるのであれば、立ち上がれないくらいまで打ちのめすのみ。ですが、命だけはご勘弁ください」

大きく振りかぶって斬りかかる相手の鳩尾に刀を逆手に持って頭を打ち込む。カハッ、と空気を吐いて、倒れこんだ相手の目の前に立った。

「政宗の大事な物を奪いたくは無いんです。…退いてくれますね?」

眉を下げて微笑を浮かべながらも、何処か逆らえない雰囲気が彼女にはあると、それを目にした兵達は冷や汗を垂らした。



その時、

「風が・・・」

呆然と、暗雲立ち込める桶狭間の方を見上げる。草が、樹が、動物達が、風が・・・息を潜めているのを肌で感じて、彼女自身の動きが止まったのだ。

「依様ッ!!!」

キィンッ

ハッと我に還った依の背後に迫った刃を小太郎が弾く。

「すみません、小太郎、才蔵。ですが・・・あちらは、終わったようです」

荒れ狂う空を眺めて、遠くに響いた銃声を聴いた。

20170306修正



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