22

川中島から直ぐ後、今川挙兵の動きを察知した武田軍は、川中島での交戦が無かった為にその準備のまま駿河へと向かうことになった。しかしその矢先、武田軍は思わぬ足止めを食らうこととなる。
同じく今川を狙って進軍してきた伊達軍が引き連れてきた宇都宮軍に阻まれ、その間に伊達軍は駿河へ。幸村と精鋭を伊達軍を追って向かわせたはいいものの、やはり北畠に進軍しているはずの織田軍が気になるからと、依はそちらへ向かうこととなった。

「小太郎は御館様へ・・才蔵」
「はっ」

才蔵と共に山城へ向かう。





「これ、は・・・」

そこは、一面、農村も田畑も城も町も、何もかもが焼け野原になっていた。ただただ薄暗く分厚い雲が空を覆い、子供の泣き声や未だ微かに命を繋ぐ人たちの苦しむ声が聞こえた。その余りの人数に、一人ではどうすることも出来ないと理解した依は、せめてもの償いに空を覆う雲を退かす為、風を巻き起こした。

「・・・魔王とは、これ程のものなのでしょうか」

青い空を取り戻し、焼けた地が明るく照らされる様に果たして救いがあるのか、依には分からなかったけれど・・・彼女に今できることは、これくらいしかなかった。



急ぎ、宇都宮へと戻る依と才蔵。そこに佐助の気配を感じて降りると、駿河の偵察から戻った佐助が上杉の忍、かすがと戯れていた。

「なあなあ、」
「・・・うるさい!」

楽しそうな(佐助だけ)その様子に、才蔵が依の隣で呆れているのにクスクスと笑う。

「すみません、かすが。佐助がお邪魔しました」
「依っ!!」
「…依様?」

かすがの前に降り立った依は、佐助が迷惑をかけましたね、と彼女の頭を撫でた。微かに頬を染めて慌てる彼女を可愛らしいと思う。謙信の前では特にしおらしい彼女は、依の前でも大人しく、可愛らしい一人の女の子だった。
しかし、いつまでも和やかにしている訳にはいかない。依はスッと笑顔を仕舞うと、此方を意外そうに見つめている佐助にも背中越しに言った。

「・・・北畠は既に落ちました。織田軍は真直ぐ桶狭間へと向かっています」
「「!!」」
「遊んでいる場合では無いようです。…ではかすが、また」

佐助とかすがの瞳が見開かれるのを確認して、依は才蔵と共にまた信玄の元へ飛んだ。

「あー俺様も・・・ってまあ、無理なんだけどさ」
「依は速いな。忍の脚すら霞んでしまう」

空を仰ぎ見るように彼女を見送ったかすがはそう呟く。風のように現れては、また風のように消えてゆく。そんな彼女はいつか本当に風のように消えてしまいそうな儚さを孕んでいると、かすがは思う。

「・・・ただ便利な訳じゃない。強大過ぎる力を使った代償は等しく彼女に降りかかる。一日に何度も移動すればその分だけ戦えなくなっちまうしさ」

少し顔を暗くしてそう呟く佐助。自分が風の婆娑羅であれば彼女の助けになったのにと、瞳を曇らせる。

「…心配しているのか?」
「へあっ?!・・・ああ、まあね。うちの大事なお姫さんだし」
「“お前の大事な”の間違いじゃないのか?」
「おぉう!何それ?!」
「・・・ふっ、冗談だ」

慌てる佐助を鼻で笑うと、かすがは桶狭間へと向かった。



宇都宮に着いた時には、既にそちらの決着は付いていた。

「御館様」
「依よ、戻ったか」
「既に北畠は魔王の手に落ちておりました。織田軍は桶狭間へ今川を落としに向かった模様です・・・私も至急、駿河へ」
「うむ。…お主、まだ大丈夫なのか?」
「はい。今日は才蔵もついております故」
「・・・あまり無理はするでないぞ。幸村を頼む、依」
「承知致しました」



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -