03

「ダンブルドア・サラ!」

呼ばれたその名に、ざわざわと楽しげに揺れていた大広間が一斉に静まり返った。先ほどまでは儀式のために普段よりは小さな、けれど喜びに満ちた賑やかさを纏っていた空気が一変して、時が止まったような静寂が辺りを支配した。その名を呼ばれた少女だけが、場違いなほど軽快に足を進め、人垣の前に進み出る。輝くようなプラチナ色の髪を翻しながら列を抜けていくその横顔を、すべての生徒が固唾を飲んで見守っていた。
その"名"が分からぬ者は、マグル生まれの子供の中にとて、この場には一人もいないだろう。

「スリザリン!」

その組分けは、一瞬のようにも、数十分のようにも感じられた。
彼女が深く被った帽子の中で久方振りの邂逅に微笑みすら浮かべていたのを、もしかしたら近くに座っていた生徒達の数人程度には目撃することが出来たかもしれない。そして、その選ばれた寮の名に、また大広間は騒めきを取り戻した  

「ダンブルドアって、あのダンブルドア?」
「校長先生の孫?曽孫?玄孫?」
「よりによってスリザリンとは」
「すっごく可愛い子だったね」
「ダンブルドアなのに、スリザリン?」

選ばれた寮の名を当たり前に思う彼女が、そしてその名を持つ"保護者"が、まわりの囁き声に興味を引かれることはない。広間の中心に座り、高いところからすべてを見下ろしながら満足気に手を叩いて彼女を送り出す校長の姿と、そして軽快に歩みを進める彼女とを、何遍も見比べる少年少女達、そして教授陣。マグゴナガル女史だけは、名を呼ぶ関係から、彼女の存在を知っていたようではあるが  本人達以外は大混乱を招いた組み分けは、その後、もう1人の有名な名前が読み上げられるまで、いつもと少し違う騒めきに満ちながら続いた。





Side Gryffindor

「ハリー・ポッターと同級生か」
「・・・生き残った男の子とかいう"アレ"か」

あの後、ゴドリックが落ち着きを取り戻すのに充分な時間をとってから、サラザールとダンブルドアと3人で話し、これから起こる事や今の状況を鑑みて、幾つかの事を決めた。

「どうせグリフィンドールだろう。私にできる事はそう多くあるまい」
「サラが旗頭になってグリフィンドールと手を取り合えばいいじゃないか」
「・・・お前、それを本気で言っているのなら一度その脳味噌をマグルに解剖してもらった方が良い」

  ゴドリックの家にサラザールが越してきた。
今、サラザールは孤児であり、そしてまだ幼い少女でもあった。孤児院を飛び出してきた、行き場のない身分。ダンブルドアの戸籍に迎え入れることにはしたが、ホグワーツの諸々の所為であまり長い時間を共に過ごす事は出来ないだろうと。ゴドリックと会う前に意気投合したような様子の2人にそんなように丸め込まれて、いつの間にか"サラ・ダンブルドア"と"リック・ゴルドール"の同居が決まってしまっていたのだった。まあ、気心の知れた(前の、だが)相手であるのだし、取り立てて不満などは無い  と思っていたのだけれど。

「ゴドリック。ちょっと来てくれないか?」
「ち、ちょ、サラ、なんて格好してるのっ?!」

呼び掛けられた言葉に振り向くと、サラザールがずぶ濡れにローブだけ羽織ってリビングまで出てきていた。

「シャワーが全然出ないんだが。コックが硬くてイライラする」
「あ、嗚呼、シャワーね、そだね、ちょっと硬いんだよね・・・今のサラの握力じゃ難しいかもね、」

ポタポタと濡れた髪から水が滴り落ちる。その中身がサラザールだからなのか、11歳の少女にも関わらず、表情が、身体の動かし方が、少女のそれとは全く別の次元のもので、なんというか、見てはいけないものを見てしまったような気分にさせられる。視線を逸らすゴドリックに、彼女は訝しげにした後、頬の赤いのに気がついたのか、呆れたように視線を細めた。

「・・・お前、この身体はまだ幼女だぞ」
「そういう、問題じゃ、ない、!」

若干引き気味のサラザールに、羞恥と照れと様々なものに顔を覆ってしまったゴドリックは、いいから早く戻ってくれと願う。嗚呼、でもシャワーが出ないんだっけ。近寄らなきゃいけないのか、アレに。

「魔法で無理やりしていいよ、壊れたら直しておく・・・」

顔を上げるのは無理だと判断したゴドリックが、ソファに沈んで弱々しくそう返事を返すと、仕方がないという溜息のあとに、サラザールからさらなる爆弾が降ってきた。

「・・・ゴドリックのえっち」

衝撃に立ち上がろうとしたのと動揺と混乱と色んなものが入り混じり、ソファから転がり落ちる。浴室の方からは、酷く楽しげな笑い声が聞こえた。



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