腐れ縁は誤魔化せない

久しぶりに帰国するという優作に仕事を何とか調整して詰め込んで片付けて、どうにか空けたとある週末。とりあえずランチでもと気に入りの店を指定して待ち合わせをすると、約一年ぶりに会う彼はいつもと変わらぬ柔らかい笑みを浮かべて一足お先に三春の定位置に座っていた。

「よく此処が俺の場所だって分かったな」

久しぶりだなと笑みを浮かべた後、またいつもの無駄にキレる推理力を発揮したのだろうと尋ねると、優作はきょとりとした後、簡単な事だと笑った。

「奥まっているが日当たりが良く、店内が見回せる位置だが目立たない。お前は昔からこういう場所が好きだろう」

これといって意識した事など無かったが、言われてみればそういった場所を好んでいるかもしれない事に気が付いて呆れる。

「・・・お前は或る意味、俺より俺を知っているかもしれないな」
「それは光栄だな」

くすくすと笑い合うこの空間は酷く居心地が良い。久しく味わっていなかったこの空気に安堵感に包まれるのが分かり、やはり彼は自分には必要不可欠な存在なのだなあと独りごちながら運ばれる料理に舌鼓を打った。





そういえば君に会いに行くと言ったら有希子が会いたがっていたよと言う優作に、連れて来れば良かったのにと言えば彼女は彼女で用事があるらしく。夕方になればその手も空くという事で、今晩は工藤邸にお邪魔する事になったのだけれど。

「三春くんっ!!久しぶりねーッ!!」

リビングのドアを開けた瞬間飛び込んできたくるりとカールした茶髪を受けとめて、その抱擁に甘んじる。彼女はスキンシップ能力が特にアメリカナイズされているので頬にキスまではどんな人物相手にでもやってのける。気に入られている三春なんて尚更である。
お決まりの流れでキスまで受けた三春は、ふと視線を向けた先に居た見知らぬ二人に瞳を瞬かせた。

「有希子ちゃん、彼らは?」
「ああ。こちらは今、家に居候している沖矢昴くん。東都大学の院生だ。そしてこちらは、」

有希子に聞いたのに優作が答えるというのはもはや気にしないのだが、三春が視線を向けた先にいた二人。一人は男性、もう一人は年端もいかぬ少年。そしてその少年に酷い既視感を覚えて、男性のほうの紹介もそこそこに三春はその小さな彼に見入っていた。

「江戸川コナンくん、遠い親戚の子でね。新一によく似ているから驚いただろう」
「うん・・・ていうかこれはもう、新一まんまじゃん」

どう贔屓目を抜いて考えても親が推理小説好きであろう名前を持ったその少年は、三春の方を驚きを持った瞳で見つめた後、気まずそうに視線を逸らした。それに構わずマジマジと彼を見つめていると、口の端がヒクリと引き攣るその表情は余程小学一年生の浮かべるものでは無くまるで、

「新一をそのまんま小ちゃくしたみたいな奴だな」

そう素直な感想を漏らした三春にピシリと部屋の空気が固まった。

「そそそそそうかしら?新ちゃんはもちょっとほら、凛々しい顔してたんじゃない?」

酷く吃って慌てたように取り繕う有希子に訝しげな視線を投げると、にっこりと微笑んだ優作が彼女に振り返る。

「ははは、三春は騙せなかったな」
「優ちゃん?!」
「父さん?!」

愉快そうに何か吹っ切れたかのように笑い出す優作に有希子と江戸川少年の慌てた声が響く。ていうかいま、父さんって・・・

「え・・・もしかしてこの子、ホントに新一だって言うわけ、」

どこの常識を引っ張り出してきたらそういうことになるのかと、現実にはあり得ないことを事実と宣う腐れ縁を仰げば満足そうに頷いて。驚いた三春が小さな坊やに勢いよく視線を戻すと乾いた笑いを浮かべながらその彼は言ったのだ。

「久しぶりだね、三春兄」

件の彼しか使わない、聞き慣れた俺の呼び名を。

「本当に新一・・・?」
「ああ、ちょっと厄介な事情があってさ」

子供の皮を被るのを辞めたのか身体とちぐはぐな大人びた口調で話す彼に瞳を瞬かせるしか出来ず、一体どういう仕組みなのかと抱き上げてみても何も分からず。まあとりあえず説明するからと言われて新一を抱えたまま気の抜けたようにソファに落ちた。

「ちょっと待て、じゃあさっきからずっと黙ったままの、あの彼も訳ありなのか・・・?」

混乱した俺たちに我関せずを貫いて本に視線を落としていた彼が顔を此方に向ける。

「ああ、そうだ。久しぶりだな三春」
「秀一?!?!」

柔らかそうな茶髪に糸目の優しげな表情から出てくるとは思えない低い声と粗暴な言い草はよく知ったもので、違和感しか感じられないその男にけれど疑う余地も無く、三春は既知の男の名を叫んだのだった。



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