プロングスの飼い猫02

「どういうことエヴァーニア?!聞いてないよ?!」
「・・・聞いてないって言ってもお前、フリーモントとユーフェミアは知ってるぞ」
「?!?!」

ところ変わって、グリフィンドール男子寮のとある一室。
あの場で大騒ぎを始めそうだったジェームズを察知したエヴァーニアが、すやすやと眠っているリーマスの頭をひとつ撫でてからスルリと猫へ姿を変えて一足先に帰っていってしまったので。そういえば、そろそろ戻らないと不味いのだったと眠た気な彼らを叩き起こして部屋へと戻れば、ひとの姿で、部屋の隅のソファに座り、コーヒーを片手にシリウスの本を捲っている彼の姿があって愕然とした。
なんでそんなに当たり前のように過ごしているんだい、と。



  面白そうだろ?」

なんで人間なのにペットになんかなっていたのかと尋ねてみれば、返ってきたのはそんな返事で。
フリーモントもノリノリだったぞ?とコーヒーカップを口元に運びながらニヒルに微笑むその男の姿は酷く様になっていて、尚のこと他人のペットになんて収まりそうな玉には見えない。

「・・・いやに人間臭い猫だと思ってたんだよな」
「シリウス?!」

一番エヴァーニア ここは猫の方だ と近くに居た彼(それこそ飼い主よりも)がそう呟いて、エヴァーニア ここは人間の方、ややこしいったらありゃしない は、満足そうに頷いた。

「そうだろう、そうだろう。俺は酷く品の良い猫なんだ。普通の猫とは訳が違う」
「そもそも猫じゃないんじゃ・・・」

はははは、お前面白いな!小さくツッコんだピーターの頭をぽふぽふと撫でる彼に、もうジェームズは何も言えないようだった。

「ちょっと父さんと母さんに手紙を出してくるよ・・・」

そう言ってトボトボと部屋を出る彼の後ろ姿は、珍しく疲れた様子でそれは少し可笑しかった。








あれから、満月の夜に何時も目にしていた黒猫は叫びの屋敷に訪れなくなった。その代わりジェームズやシリウスやピーターが動物に変身して傍に居てくれたけれど、あの金色が見えない事が酷く心細くて。

「エヴァーニア、」

屡々ひとの姿で居る事の多くなった彼は、ジェームズ達が悪戯に出ているのを良い事に彼のベッドに寝転がって本を読んでいる。

「どうした、リーマス」

その本から顔を上げて、此方に向けられる視線は柔らかい。僕の顔を見ると困ったように笑う彼は、おいでとこちらに手を伸ばしてくれた。
その手をとるように近くへ立つと、彼は僕の腰に手を回してゆるく抱き寄せるように、ん?と下から顔を覗きこむ。俯いたまま顔を上げない僕の視線とぶつかるように見上げてくるその金色が、酷く美しかった。急かすでもなくただ待っていてくれる、その温もりも、優しさも、間違いなくかつてのあの黒猫なのに。

「・・・なんで、満月に、来なくなったの」

漸く口に出来た一言は、途切れ途切れに、少し責めるような口調になってしまった。

「・・・もう必要ないだろう?」
「そんなことないッ!」

苦笑しながら僕の頬に触れた手を掴む。驚いたような彼の顔に、何だかとても泣きたくなった。

「そんなことないよ、そんなことない・・・」

慰めるように、頬を擽るように撫でられる手つきに、いつも満月の後、微睡みの中で感じるものと同じだと気付くのに。ほら、これが無いと僕は駄目なんだ。

「ジェームズ達がいれば暴れたりも、寂しくなったりもしないだろう?」

優しく言い聞かせるように紡がれる言葉に、ふるふると頭を振る。言いたい事は分かるけれど、理解して納得するのとは別だった。

「・・・はぁ」
「っ、」

彼の溜息に、ビクリと身体を震わせた。呆れられてしまっただろうかと、涙が上がってくる・・・と、ふわりと、身体が引き寄せられて、暖かいものに包まれた。僕はエヴァーニアの膝に乗り上げていた。

「いつでもこうして来ればいい。・・・呼んでくれれば、駆け付けてやるから」
「…!」

柔らかい香りに、暖かな腕に、零れそうだった涙が今度こそ零れる。僕はそれを隠すように彼の肩に顔を埋めて、離れないようにとその背をきゅうと握りしめた。
くすくすと漏れる笑い声すら嬉しくて、此処が何もかも包んでくれる安心を得られる場所だと、知ってしまった。

「リーマスは甘えただな」
「エヴァーニアが、甘やかすからでしょ」
「ふふふ・・・ジェームズには秘密な?」

アイツ俺が構わないといじけるからさと宣う彼と、二人の秘密だと額を合わせて悪戯気に笑いあった。



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