超絶極秘企画01

今孔明とその名も高い豊臣の名軍師・竹中半兵衛。
詭計智将、悪どい策も辞さない安芸の謀神・毛利元就。
そして秀吉をもってして百万の軍勢を指揮させてみたいと言わしめた豊臣の次代を担う軍師、大谷吉継。
半兵衛に必ず来ることと言い含められ呼び出されては何事かと内心固唾を呑んで参上した大坂城の大広間。それだけでも何事かと身を硬くするところ、現れたのは先に上げた戦世に轟く智将三方。この三人が協力するなど常ならば有り得ぬこと・・・一体これから、何が起こると言うのだろうか。

「三成君、家康君、幸村君、佐助君、左近君。君達を呼んだのは他でも無い、重大な相談事があったからなんだ」

此度この場へ集まったのは豊臣に近いながらも今や各国を支える要である者等の錚々たる顔ぶれで、皆は顔を見合わせ一体これから何が起こるのかと恐々としていたところ。真剣な表情で上座に腰掛けた今回の呼出人の横、いつもいつでも居るはずの彼女の姿はそこには無く、その事実が集まった者等の心の臓へと一層の負担をかけた。真逆、彼女の身に何かあったと言うのではあるまいか。

「半兵衛様・・・そ、相談事とは」
「太閤サンはどうしたの?」

三成がおずおずと申し出る。いつも大谷吉継と共にいる彼も、今回ばかりは何も聞かされていないらしい。それに加えて誰もが気になっていることを佐助が尋ねると、半兵衛は静かにかぶりを振った。

「これから話すことは、彼女には絶対言わないで欲しいんだ」

そういう前置きの元、語られた話とは、如何に。





「半兵衛ー?」
「や、太閤サン何してんの?」

その日、朝から今日は忙しいからと天守の執務室に己の代わりに三成を置いて行った半兵衛を捜して、彼女は彼の自室まで降りて来ていた。

「佐助か。半兵衛を見ていないか?」
「見てないけど・・・どうしたの、いつもアンタと一緒じゃん」
「何だか今日は忙しいらしいんだ。少し休憩でもさせようかと思って三成に茶を淹れてもらっているんだけど」

思案顔の彼女にいつもの表情を崩さない佐助も内心焦りに焦っていた。彼女をこれ以上進ませる訳にはいかない。ここで食い止めるのが彼に課せられた任務であった。
元から足止めの任に就いている三成は、彼女に逆らえず嘘を付けないのは承知の上だった半兵衛は、佐助の脚を利用した二重防衛の構えをとった。流石彼女のことを知り尽くしている彼の軍師、見事その読みは当たってしまったのである。けれどもそれにしたって、

(任が重いっての!!!)

佐助の失敗はそれ即ち、今回の件の失敗に繋がるのだ。

「俺様いま丁度ヒマだしさ、捜して伝えてあげるよ」
「・・・佐助が?幸村はどうした?大丈夫なのか?」
「旦那は溜まった執務に燃えてるから大丈夫」

やる時はやる子なの、と疑いの目で見てくる彼女を往なすも佐助の装束の中、背中は冷や汗ダラダラであった。いやでもしかし、幸村が執務を溜めながらも一度火が付くと凄まじい速さで片付けていくのも、そのときの集中力が高いのも既に周知のこと、"今"それをしている訳ではないだけで嘘を言ってはいないのだ、此処までは中々良い具合に彼女を流せていると佐助は自画自讃した。しかし。

「ていうか佐助お前・・・甘い匂いがする」

スン、とにおいを嗅ぎながら身体を近付ける彼女に佐助は慌てて飛び退いた。忍ぶのが仕事の身でありながら、その身に甘い匂いを付けてしまっている理由はただ一つ。

(祝い菓子作るの一任されてるんだから仕方がないでしょうが!!)

彼に与えられたもう一つの重大任務。だからこそ、早いところ彼女を天守へと戻さなければもう一方の任務にも支障をきたすのだ。叫びたくても叫べない愚痴は心の中で叫ぶこととする。

「なんだ?今日の幸村は甘味祭りか何かか?」
「まあ、そんなとこ・・・」

砂糖の匂いをさせる忍がどこにいるのかと、今回ばかりは佐助も言わずとも張り切っているので仕方がないが、己が職業が行方不明になりそうな心地に肩を落とした。そこへ容赦の無い彼女の呆れた視線が注がれ、グサリと見えない刃が突き刺さる。

「そんな、忍としてどうなのって目で見ないでよ!!」
「佐助・・・強く生きろよ・・・」
「あああ"ああぁ止めろよお!!!」

ポンポン、と叩かれる背中に涙がちょちょぎれそうであったが、何とか彼女を天守へと帰すことは出来た・・・失ったものも多かったけれど。



さて、佐助を揶揄い終わった彼女は大人しく三成のもとへ戻ることとしながらも思案に耽っていた。何かがおかしい。己に隠れて何かが起ころうとしているようであるのだ。
恐らくそれの主犯は半兵衛で、そしてどういう訳か皆がそれに全面的に協力しているように見える。三成なんて嘘の付けない子だから分かりやすくてそれが彼女には面白すぎて、この脱走も実は三成を揶揄う為の一貫だったりする。

「今度は元親か・・・」

少しずつ、人の気配の増えていく大坂城。磯の香りと共に轟音響く富嶽が窓の外に見え、一体何をする心算なのかとクスリと笑みが零れた。半兵衛のすることに、疑う余地など彼女に有りはしないのだから。

「秀吉様!!!半兵衛様なら、私が!!」
「ああ三成。さっき佐助に会ってね、半兵衛のことは任せたからそのうち顔を出すだろう」

己の姿を見つけ、慌てたように駆けてくる三成は、目に見えて焦った様子でいるのが面白い。大坂城に居る彼女の可愛がる子達は皆、尾のある幻覚が見えそうなほど分かりやすくその親愛を示してくれる。それが彼女にとっては、可愛くて堪らない。

「仕方がないから、三成の茶は私だけで楽しむことにするよ。付き合ってくれるね?」
「はい」

高い位置にある頭を撫ぜて、その愛らしい番犬に一先ず従うことにした。



「この腐れ乳首めがッッッ!!!」
「ブホッ?!」

一方その頃、大坂城に到着した元親はその地を踏むなり罵声と共に頬に膝を喰らい、それはそれは綺麗に吹っ飛んでいた。担いできたカジキマグロが潰れないように咄嗟に庇ったのは悲しい哉、吹っ飛ばされることに慣れている元親の判断力の賜物である。

「何すんだ毛利ィ!!!」

そしてこんな事をするのはただ一人。

「貴様こそ何をしておるのだッッッ!!此度の件、極秘だと伝えたのをもう忘れたか鳥頭!!富嶽で来るとは何事ぞ!!」
「鳥頭とは何でい!じゃあテメェ、この化け物みてえなカジキマグロ背負って俺に丘を歩けってぇのか!!」
「もっと小さい絡繰など他に幾らでもあろう!貴様の頭の中身は鳥以下か!!」
「ぁんだと?!」

ブチ切れる元就が輪刀を振るう。それに応戦しようと碇槍を取り出せば元親の顔の真横スレスレに二発衝撃が走った。

「毛利の言い分も最もだ烏め」
「あんなに音を立てて、海賊さんにはお仕置きが必要ですっ!」

銃口と弓矢の切っ先が、元親の方へと向いていた。そのギリギリ具合に瞳を見開くと同時に冷や汗を流す。元就はそれで溜飲が下がったのか、踵を返して輪刀を納めた。

「フン、」
「サヤカ、鶴の字!!」
「その名で呼ぶな」

チャキリと銃口を額に突きつけられる元親を一瞥して、元就は駆け寄ってきた鶴姫に向き直る。此度の件、参謀の一人である元就は来客への誘導と指示係なのである。

「毛利さん、次は何をすればいいですか?」
「貴様はそろそろ到着する双龍を迎えるがよい。片倉が野菜を山のように持って来るはずだ」
「お野菜ですね!了解ですっ☆」

既に到着している前田夫妻が手伝う手筈になっているものの、人手が多いに越したことはないだろう。

「長曾我部、貴様はその魚を厨へ運んだ後ここへ戻れ。あと少しで軍神甲斐の虎と鬼島津が到着する」
「チッ、なんで俺が毛利なんかに・・・」
「いいから働け」
「わーったから銃口向けんなよサヤカ!」

何かと諍いの多い瀬戸内勢も、此度の共通目的の前ではそれも鳴りを潜めていた。



「あ、慶次さーん!」
「鶴姫ちゃんじゃないか!」
「お久しぶりですっ☆」

到着した双龍を迎えていたのは前田夫妻と甥の慶次。楽しげな慶次にいつもの渋顔の小十郎と政宗。前田夫妻は小十郎の野菜に瞳を輝かせていた。

「こんなに沢山!腕が鳴りまする!」
「まつの飯は天下一だからな!」

きゃっきゃうふふ。この万年新婚夫婦の辞書に倦怠期という言葉は皆無である。

「俺と小十郎も料理の腕は確かだぜ」

それに何においても対抗意識を燃やす男が絡みつく。北の竜は勝負事が好きなのだ。

「片倉様だけでもお料理の達人たる方であるにも関わらず、独眼竜公までお料理を嗜まれるのですか!これはまつめも負けておられませぬ!!」
「良い心がけだぜ前田んとこの。料理battleと洒落込もうぜ!!」

なんだかお料理対決が勃発したのを蚊帳の外で傍観していた慶次と鶴姫は、闘志を燃やしながら厨へ向かう連中に置いて行かれないように野菜の山を運ぶことになるのだった。

「ちょっ!!まつ姉ちゃん、食材!!」
「伊達さん!お野菜忘れてますよーうっ!!」

こんなの二人で運べるのかと、ため息を吐きたくなる光景に二人で頭を抱えていれば。シュパッ、と目の前からその山が掻き消え、ふわりと舞うのは漆黒の羽が一枚。

「!!!これは、宵闇の羽の方!!!どこにいらっしゃるんですかー?!」
「あ!ちょっと待ってよ鶴姫ちゃん!!」

消えた風の悪魔を追って行ってしまった鶴姫を何となく慶次も追うことにした。だって野菜は風魔が運んでくれたのだし。



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