広がる迷走

「太閤秀吉が死した・・・だと?」
「はい。情報が錯綜し詳細が未だ掴めませんが、竹中半兵衛も共に…とのことで」

北の地、奥州。己が右目・片倉小十郎からその情報を聞いた独眼竜・伊達政宗は、信じられないその内容に瞳を見開き脇息に凭れていた身体を起こした。

「What does it mean? あの秀吉が、死ぬだと・・・?この日ノ本の誰よりも殺しても死ななそうなあの女が、そんな簡単に死んじまったってのか?」
「・・・この小十郎も、未だ信じられませぬ」

飛び交う情報は幾つもあり、その中には徳川と石田の対立に巻き込まれたというものから、病で死したというもの、第六天魔王の呪い、挙げ句の果てには根の底から蘇りし謀反の死神・明智光秀によるものなんて云う信憑性の欠片もないものまであった。だが、その情報のどれしもが共通して示しているのはただ一つ、"あの"太閤秀吉の崩御なのである。

「Hmm. どうやら、truthを確かめに行かなきゃならねェみたいだな」

そんな言葉だけで、己を下し、更には天下を任せるに足ると判断せしめた彼女が、この世から居なくなったなどと…はいそうですかと納得する事など出来やしない。政宗は重い腰を上げ、小十郎に大坂城へ向けて出立の準備を命じた。



「御館様・・・、」
「如何した幸村よ」

その頃、甲斐武田では虎の若子・真田幸村が武田が大将、甲斐の虎・武田信玄にとあることを直談判するべく謁見していた。

「此度の件に関して・・・某には一つ、考えた事がありまする」
「うむ・・・申してみよ」

もにょもにょと話す幸村が、ガバリと俯けていた顔を上げる。その瞳は、真っ直ぐと力強さを孕みながら、信玄を見つめていた。その意志に、信玄は大きゅうなりおって、と内心独り言ちた。

「某は・・・今のこの一番お辛かろう時に、三成殿と共に居て差し上げたいと、思いましてございますッ」

織田打倒の際、明智光秀に攻撃された信玄が傷を負った時の心細さ、その後信玄が病に倒れた時の不安さ、あの足元の覚束ない感覚、その時幸村が感じたそれ以上のものを、屹度いまの三成は感じているのであろうから、と。

「某は友として!三成殿のこの一大事を支えとうございますッ!!」

そう、いつの間にやら腰を上げ、拳を握りいきり立った幸村に、信玄もゆらりと立ち上がる。

「幸村よッ!!!」
「はい!御館様ッ」
「よく言ったァッ!!!」
「、べぐほッ」
「お主のその友を思う心、この信玄感じ入ったァ!!幸村よ、覚えておくが良い。世は一人で作るものに非ず。友と手を取り合い、共に創ってこその泰平じゃァっ!!」

そうして始まる殴り愛。

「ぅ・・・おぉやかたさばあぁァァァッ!!!」
「ゆぅきむるぅあァァァァッ!!!」
「はあ・・・もう、こんな時くらい勘弁してよね」

一人嘆くは真田忍隊が長・猿飛佐助。傍に現れる配下の忍からの報告を聞きつつ、やれやれと後片付けに立ち上がった。



一方四国、土佐は長曾我部の地。

「秀吉が・・・死んだァ?」
「嗚呼、」

諸国漫遊、いつもの通りにと四国に遊びに来ていたのは前田の風来坊・前田慶次。その彼が浮かない顔をして、何を言い出すかと思えば突拍子も無い、信じる筈もない話。元親は何を言っているのかと盛大に顔を顰めた。

「なァ、慶次よ・・・お前真逆、それ、信じたってのか?」
「・・・俺だってッ!信じたくなんかなかったさ!!!だけど、あんな三成を見たら・・・」

珍しく、仄暗いものを背負った慶次が視線を落とす。何でも、その噂を聞きつけて大坂へ赴いてみれば、無人の天守に項垂れる三成が居たという。噂が誠なのだと、衝撃からその背に声を掛ける事も出来ず、ふらふらとその場を離れては四国までやって来たのだとか。

「秀吉も・・・半兵衛も・・・ちゃんともっと言ってくれてれば、」

近くにいた筈だった。彼女も彼も、慶次にとっては古くからの友だ。間は空いてしまったが、それでも彼女らの昔からの仲なのに。命に迫るほどの不調を感じ取る事も、知らされる事も無く、消えるように逝ってしまうなんて。

「俺は、俺は・・・」

それでも涙を流さず、グッと拳を握り締める慶次に、元親はその背を宥めるしか出来なかった。



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