天下統一最後の戦

「筆頭、ダメです!あっちも塞がれてます!!」
「チッ…どういうつもりだ武田のオッサン、」
(誘導されている…のか?)

武田領と伊達領の境、行く道行く道、武田の兵に道を塞がれていた。武田と交える気の無い伊達軍にそこを通る事は出来ず、迂回を余儀なくされている。そしてやっと抜けられそうだとなれば、その先に待っていたのは豊臣軍だった。

「shitッ、豊臣と武田のオッサンがグルかよ…同盟ってのはどうやら本当らしいな」
「やあ、伊達政宗。川中島ぶりかな?…片倉はこの間ぶりだけど」

武田領地ギリギリに兵を並べる豊臣軍。向かい合うように馬上の秀吉が言葉を連ねる。ひらひらと小十郎に手を振るその様子は川中島での佇まいとは大違い。けれどそれもどうもいちいち、竜のカンに触るのだ。

「そういえばアンタ、うちの右目を逃がしてくれたらしいなァ。一体どういう了見だ?」
「別に、これと言って理由は無いさ。ただ、その優秀な軍師を欠いた伊達は恐るるに足らずとは思ったけれどね」

あからさまな挑発に、政宗からピリピリと雷が漏れる。

「言ってくれるじゃねェか・・・その言葉、後悔するなよ?」
「挑んでくるのは織り込み済みだ。叩き返してやるさ」

先に飛び出したのは秀吉だった。彼女に合わせて、前進する豊臣軍。

「陣形を整えろ!!武田領地に伊達軍を一歩も入れてはならない!」

大将二人が刃を交えている中、半兵衛が指揮を揮って兵達の陣が形作られていく。伊達領内に拘る理由に、小十郎だけが気が付いていた。

「やあ、久しぶりだね片倉くん。君が豊臣を去ってしまって本当に残念だったよ」
「フッ。そう言うなら、己の大将の手綱はちゃんと握っておくんだな」
「いや、別に秀吉の意向なら構わないんだけどね…ただ、残念だったと言うだけで」

その読めない表情はやはりいけ好かない。竹中半兵衛個人に対しては、小十郎とて返さなければならない借りがあった。

「伊達領内で決するのもアイツの意向か」
「そうだよ。君は彼女と話したから知っているかもしれないが・・・秀吉は、身内に攻め入られるのが嫌いなんだ」

伸びてくる鎖の鞭を弾く。視界の端には、大剣を振るう女とそれに六爪で斬ってかかる己が主君が写っている。

「君には借りを返されて来いと言われているんだ。一戦お相手しよう」
「…望むところだぜ」

















「Ha-!!防戦一方じゃねェか!!」
「そんなことはない、さッ!!」

政宗の繰り出す技の連続を、大剣を縦にして受け止めながらその隙を見極める彼女の視線は虎視眈々というに相応しい。そして受け止めながらも後退しているわけではなく、その立ち位置は微動だにしていない。それに政宗が気が付いて瞳を見開いた、それが最初の隙だった。

ギィンッ!!!

「筆頭ッ!!」
「ッ、」

押し出すように攻撃を受け止めたその大剣が、迫ってくるかと思わせた直後に右側頭部に衝撃。一瞬飛んだ政宗が息を呑み、けれど倒れはせずに踏ん張って後ろに飛び退いた。カラン、と響くのは兜の落ちた音だった。

「立っていられるとは、とんだ石頭だ」

大剣の影にその小柄な体躯を隠し、死角から繰り出す上段蹴り。彼女の主戦力はその腕力だけでは無い。女という身を最大限に活かした体術を、その大振りな武器を盾に繰り出すから厄介なのだ。そして光の婆娑羅を纏わせた蹴りは受け止めることもままならない威力を放つ。

「Ah-…、今のは中々効いたぜ。どうやら山猿ってのは本当らしいなッ!!」

どこかが切れてしまったように口角を吊り上げて突っ込んでくる政宗を、大剣を振るう光の波動で叩き返す。体制を整える前に詰め寄り斬り上げ、刃先が彼の肩を抉る。

「ッッツ、」
「お前はもう少し自分の欲を抑えるべきだな」

戦いの最中すら、秀吉を力で捻じ伏せたいという欲望がチラつき過ぎている。力差に対抗するには速さと手数だっただろうにと、眉根を寄せる彼女は一度距離をとった。

「さあ、来い。こんなものでは無いだろう、独眼竜」
「Bullshitッ!!」

意地を見せろと、手招くように待ち構える不敵な笑みに食ってかかる政宗はいよいよもってぶちキレている。先程より早いスピードに、竜の青い雷が襲う。防ぎきれないと判断して、斬り上げると同時に後退した彼女の左腕に衝撃が走る。

「ッ、」
「秀吉様ッ!!!」

除けきれなかった斬撃が掠めた左腕を大きく斬りつけたのだ。痛みで力の入らないそれに軽く舌打ちをしつつ、背後で一般兵を相手にしていた三成の焦ったような声に視線を向ける。

「いい、三成。動くな」
「しかしッ」
「そこで見ていろ」

秀吉に傷をつけた輩を許すことなど出来ない。今にも飛び出しそうな三成は、けれど不敵に微笑む彼女の言葉に足止めされる。秀吉の命令は、絶対なのだ。

「良い調子だ独眼竜。もっと見せてみろ。こんなモンじゃないだろう?」
「Shut upッ!!」


















地に背をつけて、政宗は天を仰いでいた。視界一杯に広がる空を横切るように、振り上げられるのは彼女の大剣。負けた。もう指先すら動かない。俺もここまでだったかと、瞳を閉じて自嘲気味に口角だけを持ち上げた。

「はあぁあぁぁぁぁぁ…、やっと終わった」

しかしいつまで経っても待ち構えていた衝撃は無く、首の真横に突き立てられて地を伝った衝撃と、真上から聞こえる大きな溜息と気の抜けた声に、何事だとまたパチリと瞼を持ち上げた。

「お前・・・体力底なしかよ。あーもうマジ疲れた。若さって怖ぇ」

政宗の顔の横に座り込み、突き立てた大剣に頭を擦り付けるようにして凭れかかるその女は、もう戦意など無いように腑抜けていた。

「トドメなら刺さないよ。私はお前を殺しに来たんじゃないからね」

疲労と負傷から声も出ない政宗に、そう言って微笑むその頬には真直ぐ横に切り傷が入っている。彼女も彼女でそこそこにボロボロで、けれど大きな負傷は左腕だけ。政宗はあちこち折れているし血が出ていてそろそろ手当しないとやばいくらいなのに、この女のこの底なしな強さはチート級だと乾いた音が笑いとなって口から洩れた。

「政宗様ッ!!!」

遠くから己の名を呼ぶ忠実な右目が駆けて来る。

「私のやりたいことは、右目から聞いてるんだろ。身体を休めて心を整理したら、一度大坂に来い。話をしよう」

それに瞳を細めた彼女は、そう言って政宗の頭を撫でると立ち上がった。

「待ってるからな、政宗」

はじめて呼ばれた名が、意味するそれを何となく理解して、負けたのにどこか満たされる心地を味わいながら、去っていくその背をただ見送っていた。

(秀吉様ッ腕のお怪我をッ!!)
(大丈夫だよこれくらい。三成は大袈裟)
(秀吉ッ!!頬に傷が!!!)
(こんなの掠り傷だろ。半兵衛も大袈裟すぎ)
(大袈裟なワケ無いだろう?!嫁入り前なんだよ?!)
(お前は私の母親かって・・・吉継たすけ、)
(ヒヒヒッ、我は知らぬ)



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