04

料理を作るのは安室で、場所を提供するのは千歳。そんな形が定まってきて、暫くのことだった。

「おきやすばる?」
「ええ、きみと同じ東都大学の大学院生らしいんですが」

ただの隣人という関係から、仲の良い友人くらいには昇格した千歳と安室。当初千歳が引越してきた頃はそれこそ安室の帰宅は月に2,3度であったのに、最近では毎週一度は帰ってきている上にだいたい千歳のところへ顔を出すようになっていた。

「知らないなあ・・・俺もあんまり、大学に行かないし…学部が違えば関わりもないし」
「そうですよね・・・すみません、変なことを聞いて」

仕事がどうだとかは、よくわからない。けれど頻繁に帰ってくるようになった安室は千歳の前ではそこそこリラックスしているように見えるので、それならそれで良いのかもと思うようになっていた。

「その人が、どうかしたの?」
「いえ・・・ただ、探している人物に少し似ていて」

そう言った安室の空色の瞳が、僅かに濁った。いつもきらきらと輝いている綺麗なブルーがくすむのは、好ましくない。

「・・・探してるひと?」
「いや、忘れてください」

安室がポーカーフェイスを保てないくらい執着している相手に、僅かに溢れそうだったピリリとしたものを、千歳はそっと仕舞い込んだ。見ないように、見せないように。そんなものは知らないし、要らない。憂う安室の頭を撫でて、見つかるといいねと一言添える。ソファで隣同士に座るくらい、近くを許すようになった安室の存在は、千歳の中で既に決して小さくなくなっていて、そもそも帰国してからまともな関わり方をしたのは彼だけなのである。"諏訪部千歳"と、接しているのは安室だけ。素の自分と触れ合っているのは、このひとだけ。彼が、"素のままでは無くとも構わない"と千歳は思っていた。この部屋の外で、千歳がやっている仕事を安室は知らないし、知らないままで良い。

「髪、柔らかいね。それに不思議な色してる。蕩けるみたいに、光に透ける色」
「・・・な、にを」
「ふふ。照れちゃった?」

琥珀色のそれを、持ち上げて透かすように落とす。指通りの良いそれは、きらきらと光に透けている。綺麗な空色が戻ってきたのを見て、千歳は満足げに微笑んだ。すると顔を赤く染める安室が、それでもそれが外では見せないような顔であると確信できるから。

「きみは直ぐそうやって・・・」
「安室さんがわるい」
「どこがですかっ?!」

沖矢昴。
その名の男を、千歳は知っていた。



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