13 安全確認

雄英高校が襲撃されたという報が流れて数日。
ホークスは自他共に認めるほど可愛がっている少年  問覚統が件の襲撃の被害に遭った1-Aだという事で当初から非常に心配をしていたが、連絡は何度か取れたものの一度もその彼に会いに行く機会を作れていなかった。どうやら色々と理由があるようだったが、相棒達はその詳細を知らず、日に日に消沈していく速すぎる男を横目に見ながらどうしたものかと頭を悩ませていた。事務所から一歩でも出れば、そんな落ち込み振りなどお首にも出さずにヒーローを全うする様子がまた哀愁を感じさせ、相棒達の心は酷く痛んでいた。

「はぁ・・・」

どうにかしてやれないものだろうか。



何度か事務所へ来たこともある件の少年は、事件後一人暮らしなのを危険視されて、暫く教師の家で過ごしているらしい。雄英側も今はピリピリとしていて外部との接触を出来るだけ避けるようにしている為、ホークスも直接行くのは控えている状況だった。
メールや電話は何度かもらっているものの、彼は心配をかけまいと詳細を有耶無耶にするのでそれがホークスには歯痒かった。目良から聞く限りでは、個性を無理に使った所為でかなり脳に負担をかけて今も睡眠が足りていないとか。何故そんな無茶をしたのかと問いただしたい思いをグッと堪えて、統を責め立てないように何とか自制するのもそろそろ辛くなってきている。あの子が死にかけた時に助けたのがイレイザーヘッドで、その彼にあの子が懐いている事も、憧れや親しさを抱く大切な相手なのだという事も分かっているが、そんなものよりも自分自身を大切にしてくれと思ってしまう。教師が生徒を守るのも、ヒーローが学生を守るのも当たり前のことで、それで負傷したのだとしても、統が無理をする必要なんて無かった  分かっている、あの子がこれからなろうとしているものも、自分がイレイザーヘッドに対して嫉妬に近い思いを抱いてしまっている事も、こんなふうに思う事が決して良いことではない事も  

一人ではぐるぐると考え過ぎてしまうから、だからこそ、早くあの子の無事な姿をこの目で直接確認したかった。

それからホークスが統に会うことができたのは、襲撃事件から一週間が経過した頃だった。やっと自宅へ帰る事が認められたという統が、今日から放課後の訓練を再開すると連絡をくれていたので、シフトを調整してすっ飛んで来たのである。ちなみに、急な調整だったにも関わらず相棒達にはいいからこっちは任せて早く行けと背を押された。優しい所員を持って喜ばしい限りだ。

「統ッ!!」
「ぅわっ」

東海地区の公安の施設へ行けば、統は既に訓練を始めていた。驚いたように瞳を丸めてこちらを見上げる彼に突撃するように抱き上げると、苦し気に呻き声が上がる。

「ぐるじぃ…」
『ちょっとホークス、離してください訓練中ですよ』

天井のスピーカーから咎める声が聞こえるが、そんなものに構っていられる余裕は無かった。元気そうな姿を、体温を、この腕いっぱいに感じていたかった。苦し気な声色に腕の力を少し緩めると、宥めるように背に腕が回った。

「大丈夫だよホークス、心配しすぎ」
「仕方なかやろ・・・!」
「ごめんて。俺の訓練不足が原因だから」
「そうやとしてもやっぱ俺のとこ居ったほうが」
「あーあー、その話はもう入学前に終わってますぅ」

雄英なんかにやるからこんな事になる、というホークスの主張を耳を押さえて聞こえない振りをして拒否する統に不満を如実に現した顔を上げれば、仕方がないだろうと言いたげな顔で微笑まれて二の句が継げなくなる。

「ホークス、ひまなら訓練付けてよ。俺もうすぐ体育祭なの」

そしてなんて事もないように、説明する気は無いのだと暗に含めながら、変わらぬ調子で続けるから  この子も、此処の人達に育てられた、自分と同じ類の人種なのだと再認識してしまう。そうだ、おかしいのは自分のほう。こんなにもこの少年の事を大切に思ってしまっている事が、既におかしな事なのだと、分かっているけれど目を背けていた現実に、無理矢理顔を突き合わされたような心地になった。

  いいけど、俺と訓練なんかして強くなっちゃったら、目立ち過ぎない?大丈夫?」
「大丈夫、当日はこれで行くから」

形振り構わずすっ飛んで来た先程までの諸々は全く無かったことにしながら、素知らぬ顔を貼り直して戯けてみせると、目の前の少年はホークスの内心や何もかもに気付かぬ振りをして会話を続ける。得意気な顔で当日の対策を見せてくれたその姿に、それでも間の抜けた可愛らしさのようなものを感じてしまって苦笑を返す。

「3年間それで行く気?」
「うん」
「マジか、逆に目立つんじゃないの」
「大丈夫だよ、周りにもっと目立つヤツたくさんいるし」

誰も俺なんて注目してないから、と言い切るその変な自信はどこから来るのか。まあ、その姿ならばパッとしたものは感じられないし、エンデヴァーの息子に何かと話題に上がる爆破個性の少年も居る彼の同級生を考えれば、確かに彼の言い分も分かる気がした。その言葉に同意を返しながら、もう何度も繰り返した彼の訓練を始める。剛翼を飛ばしての不意打ちからの攻撃、範囲内の同時認識、精度上げ  パシッ、と捕らえられた羽の一枚が、ふるりと囁き声に震えた。

「今日、終わったらうち来て」

嗚呼、これだからこの子を想うのを止められないのだ。



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