14 唸れ体育祭!!-01

相澤は眉根を寄せながら、体育祭の為にと引っ張り出した1-Aの生徒の個性に関する資料を読み込んでいた。
中でもやはり気になってしまうのは、先日の襲撃で個性のオーバーヒートを起こした統について。病院での精密検査とリカバリーガールからのお墨付きを得て、まだ包帯の取れない相澤の世話について心配しながらも自宅に戻った統は、どうやら雄英以外でも個性や対人の訓練の伝手があるようだったが、最後まで相澤にもマイクにもその詳細を明かさなかった。当のオーバーヒートの原因も、"練習中の個性の使い方"という事だったので一体どういう事をしているのか知りたかったが煙に巻かれ、校長もそれについて知っているようだったがこちらも適当にはぐらかされては、相澤に残った情報源は入学時の資料だけだったのである。

  『問覚統』の個性詳細資料

個性"空間掌握"
任意の範囲の空間を指定して自身の感覚下に置き、知覚・干渉することが出来る。

指定した空間内のあらゆるものを、見て、聞いて、嗅いで、触って、味わうことが出来る代わりに、個性の発動中は自身にあらゆる感覚が無くなる。指定した範囲内に自身の身体が入っていれば自身の身体も感覚下になるため問題ないが、自身を含まずに範囲を指定する場合、限りなく無防備になる。
入学時の個性の最大展開範囲は市街地で最大半径1km程度だが、人や物体が入り乱れるなど情報が増えた場合、情報の濃度を増して些細に見聞きする場合には最大範囲は縮小される。

個性の許容量を超えると頭部が異常に発熱する。また、睡眠量が10時間/日程度必要  


相澤が知る統は、本当に幼い、まだ個性も発現したばかりの頃の事で、病院内の事ならどこでも見聞きする事ができるという程度のものだった。それだけでも充分、一人の人間が処理しきれるだけの情報量を超えたものが頭に流れ込み、あの子は頻繁に熱を出したり昏倒したりを繰り返していた。その夥しい情報を取捨選択し、不要なものは流し去ることで、徐々にコントロール出来るようにしていった。それが、今や広範囲を自由に己の手中で眺めるが如く扱えるようになっているとは。一体、どれほどの個性の強化や訓練を行なったのか。それは一体、どこでどういう経緯でそうなったのだろうか。



『群がれマスメディア!!今年もおまえらが大好きな高校生達の青春暴れ馬・・・雄英体育祭が始まディエビバディ、アァユウレディ!!??』
「うわぁ・・・マイク先生、声でかー…」
「元気が良くていいじゃない」

例の襲撃から二週間。
問覚の不安定な状態と相澤のぐるぐる巻き具合を見て、2人を監視・監督することにしたプレゼント・マイクの元  あれやこれやと世話を焼く彼の姿にこれは苦労性だと確信した  一週間ほど眠気と戦う日々を過ごした問覚は、そこからさらに一週間、身体と脳を休める為に衰えた分を取り戻し、今日の日を迎えた。

「そういえば問覚くん・・・あの、聞いてもええかな?」
「うん?」

他のクラスメイト達も各々準備に励んだようで、みな決意に満ちた顔をしている。花火や音楽、そしてテンション爆上げのDJプレゼント・マイクが盛り上がる中、スタジアムに入場しながら、隣を歩いていた麗日がおずおずとそう口にしたので、問覚がどうしたのかと首を傾けると、背後から上鳴が飛びつくように肩を組んできた。

「その前髪ッ!どーした問覚!?」
「めっちゃモッサくなってンなあ」
「モサメン万歳!!」
「あー・・・?」

それに瀬呂や峰田が続く。上鳴の肩越しに麗日も頷いており、嗚呼これのことかと納得のいった問覚は、やれやれと両手を上げて肩を竦めた。ホークスにも本当にそれで行くのかと二、三度聞かれたけれど、将来の事などを考えると素顔はあまり公になっていないほうが都合が良い。

「ウチの事務所、顔出しNGなんスよ」

戯けたようにそう答えると、周りのみんなが吹き出した。

「なんじゃそら!!」
「あんまテレビに映りたくなーいの」
「ふぅーん?」
「ここで目立たずしてどうするよ!?」
「変なの
「目立つならヒロスで目立ちたいワケよ」
「あーそれは分かる!今日着たかったなー!」

くすくすと笑いながらそんなふうに言えば、みんな納得したのか、そもそもそんなに気にしていないのか、それよりも自分の事なのか。適当に流してくれるから優しい奴らだと改めて思う。問覚がこうやって、時折答えにくいことを戯けて濁す事に何人かは気がついているだろうが、これまで詳しく追求された事はなかった。

「運命の第一種目・・・今年は、コレ!」

爆豪の挑発煽り宣誓を終えて騒つく一同を流して発表された第一種目。早速、という言葉通りに簡単なルール説明の最中に門が開き、位置につけと競技が始まる。

「コースを守れば何をしたって構わない、か・・・」
「スターーーーーート!!!」
「ってスタートゲート狭すぎだろ!!」
「これ  ズルいって言われそうだなあ」
「ああ"ッ!!!」

開始の合図の直後、ゲートに押し寄せる人並みに流されて満足に動けないクラスメイト達を尻目に頭の上へ身体を持ち上げると、側にいた芦戸や峰田が声を荒げる。

「お先!」
「ズッリィぞ問覚!!!」

じゃ、と手を挙げて誰もいない宙を駆け出すのと同時、少し前方で轟が足元を凍らせて後続を足止め  それを見据えて避けたクラスの連中が、問覚の前を飛んだり跳ねたりしていく。

「甘いわ轟さん!!」
「そう上手くいかせねぇよ半分野郎!!」
「二度目はないぞ!」

流石ヒーロー志望。群衆から抜け出るクラスメイト達を眼下に眺めながら宙を駆けて行った先、道を塞ぐ巨大なロボット達の群れの前へ、個性を止めて降り立った。

『さあ!!いきなり障害物だ!!まずは手始め・・・第一関門ロボ・インフェルノ!!』

プレゼント・マイクの楽しげな解説の声が聞こえるなか、一瞬足を止めた問覚は、すぐに辺りに個性を張りなおして、ロボット達の足元を抜けていく。目元にかかる前髪で前は見えないが、展開した個性のおかげで辺りで繰り広げられる動きの全てが、手にとるように分かる。潜り抜け、紙一重で避けながら、自分の目の前を塞ぎそうなものは手前で押し留める。その動きの全てを、まるで盤上を覗くかのように予測して動く事は、問覚の個性にかかれば簡単な事だった。
その間に、巨大ロボの足元から斜め上へ振り上げるような冷気を出して、轟がロボット達の動きを止めていく。

『1-A轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィーー!!』

派手なその動きに実況が沸く。一度凍らせたロボットは不安定な状態で傾き、轟が足元を駆け抜けてすぐに地面に倒れ込んだ。彼がつくった道を行こうとした後続がそれに巻き込まれる様に、背後を振り返る事なくそれを見ていた問覚は、容赦なしかよと空笑いを吐き出した。

『すげぇな!!一抜けだ!!  お?と、一抜けはこっちか!!あれは誰だ…?』

地面を凍らせて滑りながら走って加速する轟が、すぐに問覚に追いつくと、解説のマイクがやっと彼の存在に気がついた。

『あれ、問覚だな』
『あ?・・・なんだあの前髪!!モサ!!』
「あんまり写さないで欲しいんだけどな・・・」

聞こえやしない独り言をそうやって溢しながら苦笑する。この邪魔な前髪は出来るだけ顔を晒すな、けれどそこそこの結果は残せという公安からの矛盾した指示へ対応するために考えた結果の産物で、まあ個性を使っていれば前がきちんと見えていなくても関係ないからと考えた問覚に出来る苦肉の策だったのだが。顔を少し隠しただけで誰だと言われるとはちょっと心外な気もした。あんなに一緒にご飯食べた仲なのに。

「余裕そうだな」

そんなふうに走っていたからか、すぐ横から憎々しげに、轟の鋭い声が飛んできた。

「俺の個性に、障害物は関係ないからね」

轟に返すようにまたくすりと笑みを溢すと、問覚は正面へ向けて更に認識範囲を拡張しながら、綱渡りの第二関門を越えるために再び上空へと駆け上がった。

  さて、問覚の障害物競走の結果は4位という位置に落ち着いた。轟と爆豪の首位争いを避けるように、時折飛んでくる妨害を足蹴にしながら上空の少し後ろを走っていたのだが、緑谷が爆風を起こして飛んできた事によって、その煽り風を避けるために一度低く降りる事になり、首位争いの少し後ろ再び上空へ逃げるのをB組の塩崎や骨抜に妨害されたのである。
地面をぐにゃぐにゃにされた時にはとても驚いた、質量など見かけは変わらないので、問覚の個性では触れるまでその違いが分からなかった。これは意外な盲点で、是非とも一緒に訓練させてもらいたいなと考えつつ、そんなふうに先程の小競り合いを分析している内に、第二種目が発表されていた。

  1位に与えられるポイントは1000万!!上位の奴ほど狙われちゃう…下克上サバイバルよ!!!」

どうやら、次は騎馬戦をやるらしい。



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