07 気になる素顔

「なあなあ上鳴。なんか俺の写ってる写真持ってない?」

授業の合間の休み時間。いつも机の上に伏せて眠っているか、ふらりとどこかへ行っているか、たまに誰かと話していたとしても切島か尾白くらいなものの問覚が、その日俺に話しかけて来たのにはなんだかすごく驚いて、そしてちょっとそわそわした。問覚が悪いやつじゃないのは見ていれば分かるけれど、いつも一人でいる事が多いからか、どこか近寄り難く思っていた。

「・・・写真?」

その内容はちょっと直ぐには理解出来なかったけれど  なんで写真?

「うん。上鳴、よくみんなと写真とか教室で撮ってるから、俺が映り込んでるのとかないかなって」
「あー。探してみるけど…何に使うん?」

中身を確認するためにスマホをぽちぽちと弄りながら尋ねると、問覚は苦笑しながら答えた。

「知り合いに、まだ制服姿見てないってせがまれててさ」
「ブハッ!なんだそれ?」
「まさか女かッ!?」
「んー、いや…兄ちゃんみたいな人、かな」
「男なら用はねぇ」

峰田が急に絡んできたが、確かに問覚ほどの綺麗な顔なら、制服云々を口実に写真をせがむ女とかいそうである。そんな峰田は、兄のような人だと言われて直ぐに興味を失っていた。

「ていうか映り込んでる程度のでいいのかそれ」
「いいよ別に、適当な感じでさ」
「あ、そいじゃあさ!今撮ってやるよ!」
「え」

そもそもそんな感じで誰かに送る写真なら、映り込んでいる程度のものではダメなのでは。そう思って閃いたことを伝えると、問覚は驚いたように固まった後、仕方がないとばかりにじゃあお願いしようかな、と表情を緩めた。



「いざ撮るって言われると恥ずかしいな…」

その休憩時間はもう残りも少なかったので、次の休み時間にという事になって、授業後。いつもと少し違うことをする時って、どうしてこうワクワクするんだろうな、と思いながら、シャキン、と無駄に格好付けてスマホを問覚に向かって構えた。

「なになに?問覚の撮影会?」
「私も撮るー!」
「僕のことも撮るかい?」
「私も私も!問覚の写真、女子に売れそう!」
「いや、売っちゃだめだよ…」

苦笑する問覚を教壇の辺りに立たせて周りをうろうろしながらベストショットを探していると、楽しいこと好きの芦戸が参加すると言い出し、それに乗る形で近くの席から葉隠や尾白、緑谷が参加する。耳郎や障子も席から眺めることにしたようだった。

「じゃあ一番上手く撮れた奴の勝ちな!」
「なにそれ・・・恥ずいんだけど・・・」
「問覚は自然にしてれば良いからさ!」
「ええー・・・」

完全におもちゃになってしまった問覚には悪いけれど、普段あんまり関わらない奴から声をかけられて俺もテンションが上がっていたのだと思う。パシャパシャとスマホのシャッター音が響き、教室中の視線がこちらを向いていた。爆豪が騒がしいと舌打ちをするが、それよりも俺たちの盛り上がりの方が勝っている。

「問覚ー!こっち向いてー!」
「問覚くーん!こっちもー!」
「もうむり・・・」
「うはは、問覚照れてんの!」

きゃあきゃあと囃し立てる女子達に遂に問覚が根を上げて、頬を赤くしながら両手で顔を覆う。こんな反応もするのか、と珍しいものを見た気になって揶揄っていると、トイレから戻ってきた切島が教室へ入ってきて、問覚が取り囲まれている様子に驚いてこちらへやって来た。

「なんだなんだ?どーした問覚?」
「切島、」

顔を覆っている問覚を覗き込むように肩を掴んだ切島に、問覚がホッとしたような顔をする。緩んだはにかみ顔が自然に柔らかな表情になっている、と思う間も無く、隣からカシャッとシャッター音が響いた。

「あ!いますごく上手く撮れたよ!」

スマホを構えていたのは緑谷だった。
いま撮った写真を開いて満足いったのか、にこにこしながら声を上げる。

「見して見してー!」
「おおっ!ホントだ、自然!イケメン!」
「かっこいい!」
「顔が優しい!」
「自然でイケメンって、おかしくねえか?おかしいよなァ!!」
「峰田、もう諦めろって、虚しくなるだけだぜ…」

みんなで緑谷が差し出したスマホを覗き込むと、そこには切島と一緒に柔らかな表情を見せる問覚が写っていて、確かにこれは上手く撮れてるな、と思える出来だった。問覚はきれいな顔と、その色合いのせいか、真顔な事の多い普段はどことなく冷たそうな印象を受ける。それが表情が変わるだけでこんなふうになるのか、という発見と、話せば普通に男子高校生然とした奴だというのも分かって、すごく身近な感じになった。

「ありがとう緑谷、それ送ってくれるか?」

問覚もその写真で満足したようで、緑谷にそう声をかけると自分のスマホをポケットから取り出した。

「えっ、あ、うん!…えと、問覚くんの連絡先が、」
「ああ。緑谷の連絡先聞いてもいい?」
「うっ・・・うん!勿論!!」

あわあわする緑谷に、爆豪が席から舌打ちを飛ばす。それに肩を震わせる緑谷をスッと自分の影に庇いつつ、問覚がまたふわりと表情を緩めるので、緑谷がふぁっ、とか変な声を出している。心なしか頬が赤いのがウケる。

「・・・なるほど、イケメンはああやってスマートに連絡先をゲットする訳だ」
「参考にしよう」
「緑谷、乙女みたいな反応してんな」

ていうか俺も教えて!と問覚にスマホを向けると、勿論、と笑顔が返ってくる。誰かと話すときにはこうして柔らかな顔を見せる、温厚なヤツなんだなあ、とその一面が知れたことを嬉しく思いながら、また迫りくる授業の為に上鳴はバタバタと席に戻った。

その日の夜、寝る前に『今日はありがとう』と問覚から連絡が来て、少し誇らしい気持ちになった。

"兄ちゃんに送った?"
"うん。そしたら、隣の赤髪は誰だってめっちゃ聞かれた"
"なにそれ過保護かよ!?"
"ほんとにな"

そんなふうなやりとりをしてしまえば、これはもう、友達であろう。明日また会うのが楽しみだな、と思いながら、その日は眠りについた。



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