06 侵入者と統治者

屋内戦闘訓練の次の日の朝のこと。相澤先生が教室に入ってきて、昨日のVを見た軽い感想と共に、クラスに爆弾を投下した。

「さて、HRの本題だ…急で悪いが今日は君らに…」
(何だ…?また臨時テスト…!?)
「学級委員長を決めてもらう」
「「「学校っぽいの来たーーー!!」」」

朝からワァッと盛り上がる皆の声に思わず顔を顰め、その表情を隠す為に机の上にうつ伏せる。
クラスメイト達にはこの短い期間でも好感を持っているけれど、喧しいのだけはどうにも苦手だった。大きな声は、それだけで脳を揺らすから。

「委員長!!やりたいです!!それオレ!!」
「ウチもやりたいっス」
「オイラのマニフェストは女子膝上30cm!!」
「ボクの為にあるやつ☆」
「リーダー!!やるやる!!」
  静粛にしたまえ!!」

だから、そんなふうに立候補と称して騒いでいた皆の事を、たった一言で静かにさせて、投票で決めようと言い出した彼に、票を入れようと思ったのだ。

「"多"を牽引する責任重大な仕事だぞ…『やりたい者』がやれるモノではないだろう!周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…!民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めると言うのなら…これは投票で決めるべき議案!!」
「聳え立ってんじゃねーか!!何故発案した!?」

投票を提案しながらも自らが立候補していたのには、皆から空かさずツッコまれていたけれど。

「日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」
「そんなん皆自分に入れらぁ!」
「だからこそここで複数票を獲った者こそが真に相応しい人間ということにならないか!?どうでしょうか先生!!」
「時間内に決めりゃ何でもいいよ」

見た目もなんだか委員長ぽい感じだし。
けれどそう思っていたのは、どうやら俺だけだったようで。

「僕三票ーーーー!!!?」
「なんでデクに・・・誰が・・・!!」
「まーおめぇに入れるよか分かるけどな!」

いざ投票をしてみれば、票を集めたのはなんとあの緑谷だった。八百万には本人以外の誰かが1人入れたようだ。飯田に1票しか入っていないのを見て一瞬瞳を見開く。けれど直ぐに、彼自身は緑谷に入れたのだろうなと思って、なんだか更に好感が増した。あんなにやりたそうにしていたのに、自分がやりたいのとは裏腹に、相応しいと思える人に投票できるところが。

「票が入ってないのは麗日、問覚、轟か…」
「まあ大体想像つくな」
「1票…一体誰が…!!」

今度こっそりと伝えたら喜んでくれるだろうか。そんなことを思いつつもう一度顔を伏せる。もう決まったようだし、寝ていてもいいだろう。

「じゃあ委員長緑谷、副委員長八百万だ」
「うーん、悔しい…」
「ママママジでマジでか…!!」
「緑谷なんだかんだアツイしな!」
「八百万は講評ん時のがカッコよかったし!」

それにしても、緑谷は個性把握テストや昨日の戦闘訓練では無茶苦茶するが、普段は控えめというイメージが強い。向いていないとは言わないが、彼が票を集めるのは少し意外だな、と思った。この短期間で、それほど慕われたということなのだろうか。今度話しかけてみよう…と思いながら微睡み始めた時、無常にもチャイムが鳴り響き、俺の昼寝は中断された。



HRは昼休憩を挟むらしい。4月というのは割とこんな事ばかりである。
そういう俺自身、いつも色々と教え込まれている公安の人達から、折角入学したのだから雄英側で唯一こちらの内情をある程度伝えてある校長に挨拶しておくようにと言い使っていて、彼にはどうやったら会えるのかと職員室を訪れていたのだった。ほんとに、4月ってこんな事ばかりだ。

「せんせ、」

ゼリー飲料を口に咥えながらキーボードを弾く相澤先生の姿を見つけて、声をかけるのと同時。サイレンの音が鳴り響き、非常事態を報せる警報に場が凍りついた。

「なんだ!?」
「セキュリティ3だと!!」
「問覚、すまんが確認してくるからここに、「相澤先生」

騒つく辺りの空気に即座に発動させた個性でありったけの敷地内を認識する。流石にこのバカでかい敷地内全部とまではいかないが、本校舎周りはカバーできるそれに引っかかった、普段と大きく違う部分。

「正面玄関前に数十人…それからビデオカメラに機材…マスコミが入り込んだっぽいですね」
「問覚、お前・・・」
「上手に使えるようになったでしょ」

視た情報を簡単に口頭で伝達すると、驚いたように瞳を見開く先生に、にっこりと微笑みを返す。
先生は俺の言葉にふっと表情を緩めて頷くようにすると、酷く優しい瞳をして、俺の頭に手を置いた。ありがとね、とすれ違いざまに聞こえた声に、俺がどれほど嬉しくなってしまうのか、彼は分かっているのだろうか。俄然やる気が漲ってきて、指先を叩いて正面玄関前を詳細に視ていく。

「セキュリティゲートが粉々になってるな…そんな強力な個性のヤツが報道陣の中にいるのか…?それにしては正面玄関から先には侵入しようとする素振りを見せる輩がいない…」

ただのマスコミがやらかしたにしては度を越えている惨状に、何故こんな事が起きたのかと識り得た情報から考える。オールマイトへの取材がしたいと過熱気味だった報道陣に溜まった不満、焦り、憤り。そういったものを煽って、導いたヤツがいるのかもしれない。

「キミが問覚くんかな」

そこまで考えた時、足元から掛けられた声に、ハッと我に返った。

「はい」

そこに居たのは、ネズミなのかクマなのか、小さな、けれど二足歩行で人語を操る生物。

  根津校長先生」
「そう、校長さ!あとは僕たちに任せてくれていいよ」

軽く手を上げてそう宣う姿は、非常事態に走り回る先生方の中で些か陽気にすら見える。この人がこうしてブレずに構えているからこその雄英なのだと、何となく感じとる。

「分かりました。その前に校長先生、俺の視たもの差し上げますね」

ちょっと失礼します、と言ってしゃがみ込み、校長先生の額に自分のそれを合わせる。本校舎周りをスキャンしたような立体情報がぶわっと入り込んだであろうそれに瞳を見開く目の前の人へ、役立ててくださいと微笑んだ。

「他にも何かお役に立てる事があれば呼んでください。そういうふうに言われてるんで」
「そうか、キミは…」

公安の、と声には出されなかったけれど、理解はしてもらえたようだった。これで挨拶も済んだな、と背筋を伸ばしながら、俺は未だ混乱極まる職員室を後にした。



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